AI 開発大手 Anthropic の CEO、Dario Amodei 氏は 2026 年 6 月、「Policy on the AI Exponential」と題したエッセイを公開しました。同社はこれまで、AI のリスクが明確になるまで強制的な規制は時期尚早として、開発企業の情報開示を充実させることを中心とした穏健な立場をとってきました。しかし今回のエッセイでは、その姿勢を明確に改め、政府による強制的な安全審査と、問題のある AI モデルのリリースを阻止する法的権限の付与を求める内容となっています。
Amodei 氏は、政策立案のスピードが AI の進化に追いつけていない現状を「ロード・オブ・ザ・リング」の登場人物に例えながら、政治システムは AI の進歩から少なくとも 1 年遅れていると指摘します。そのうえで、1〜2 年以内に各分野の専門家レベルを超える AI が登場するとし、社会や経済への影響に備えた制度づくりを急ぐべきだと訴えています。
規制の具体的な枠組みとして、Amodei 氏が参考にするのは米国の航空行政を担う FAA(連邦航空局)のモデルです。一定規模以上の計算資源を使って開発された AI モデルについて、サイバーセキュリティや生物兵器への悪用リスクなど 4 つの分野で第三者機関による審査を義務付け、基準をクリアできないモデルは政府が展開を差し止められるようにすることを提案しています。対象となるのは AI 関連の収益が 5 億ドル(約 750 億円)を超えるか、AI 研究開発への投資が 10 億ドル(約 1500 億円)を超える企業です。
雇用への影響についても踏み込んだ提言をしています。AI によって失業率がどの程度上昇するかに応じて段階的な対策を講じる方針を示しており、最悪のシナリオでは法人税やキャピタルゲイン税を財源とした全国民への現金給付(UBI)も選択肢に挙げています。Anthropic は、こうした政策の研究・実施を後押しするため、同社として総額 3 億 5000 万ドル(約 525 億円)を拠出すると表明しました。内訳は、経済政策の試験・研究に充てる 2 億ドル(約 300 億円)の「Economic Futures Research Fund」と、次世代の政策人材を育てる若手向けフェローシッププログラムへの 1 億 5000 万ドル(約 225 億円)です。
このエッセイが公開されたのは、Anthropic の最新モデル Claude Mythos Preview が数千件にのぼるソフトウェアの重大な欠陥を自動で発見したと報告された直後のことです。業界内では、AI の進化が既存の制度を超えつつあるという問題意識には共感が集まる一方、今回の提案が大手開発企業に有利な規制の枠組みを固めることになりかねないとの見方もあります。Anthropic は「AI の安全性を AI 企業だけに委ねるべきではない」として、政府が主導する形でのルール整備を強く求めています。
