AI倫理と規制 政府・行政のAI取り組み

米 AI 安全機関 CAISI のトップが就任 3 カ月で辞任、リーダー不在が続く

米 AI 安全機関 CAISI のトップが就任 3 カ月で辞任、リーダー不在が続く
文字サイズ

米商務省傘下で AI の安全基準策定を担う「 AI 標準・イノベーションセンター( CAISI )」のトップ、クリス・フォール氏が就任から 3 カ月で辞任したことが、 2026 年 7 月 21 日に確認されました。理由は公表されておらず、トランプ大統領のスポークスマンも口を閉ざしています。商務省の内部関係者は、フォール氏の起用はそもそも暫定的なものだったと明かしています。

CAISI は、バイデン政権が設立した「米国 AI セーフティ研究所( AISI )」を改組する形で 2025 年 6 月に発足した機関です。 Anthropic 、 Google DeepMind 、 OpenAI 、 Microsoft 、 xAI と連携し、一般公開前の AI モデルに潜む脆弱性の検証や、化学・生物兵器への悪用リスクの評価などを手がけています。

そもそもこのポストは、 Anthropic と OpenAI で研究者として活躍したコリン・バーンズ氏が就く予定でした。ところが着任からわずか 4 日で事実上の解任となり、その後フォール氏が後を継いでいます。 Anthropic との対立を深めていたトランプ政権にとって、同社出身のバーンズ氏の起用は受け入れがたかったとみられています。

なぜこれほど短期間でトップが入れ替わるのか。根底にあるのは、トランプ政権が抱える構造的な矛盾です。同政権は AI の規制緩和とイノベーション推進を掲げていますが、安全保障上のリスク管理も無視できません。しかし、 AI 安全の専門家は Anthropic や OpenAI といった民間企業の出身者が大半を占めており、これらの企業と対立関係にある政権にとって、政治的な摩擦を避けながら適任者を探すこと自体が難題になっています。また CAISI はバイデン政権が生み出した組織であり、その役割や権限について現政権内の意思統一が十分に図られていないことも、腰を据えたリーダーが育ちにくい一因と考えられます。

今回の辞任は決して孤立した出来事ではありません。 AISI の初代ディレクターだったエリザベス・ケリー氏は 2025 年 2 月に退任し、ホワイトハウスで AI 政策を取り仕切っていたデービッド・サックス氏も 2026 年 3 月に去っています。いずれも後任は決まっておらず、米国の主要な AI 安全機関がリーダー不在のまま運営されるという状況が続いています。

当面の対応として、商務省は NIST (米国立標準技術研究所)のアルビンド・ラマン博士が代理ディレクターを兼務すると発表しました。元パデュー大学工学部長のラマン氏は、 2026 年 6 月 30 日に NIST トップに就いたばかりです。商務省は数週間以内に正式な後任者を発表するとしていますが、二つの重要機関を一人でまとめる体制は、あくまでも緊急避難的な措置にすぎません。

中国では新興 AI 企業 Moonshot AI が「 Kimi K3 」を発表し、 OpenAI や Anthropic の最先端モデルをベンチマークで上回ると主張しています。 AI 競争が国家安全保障の問題へと発展するいま、米国政府が CAISI の体制を立て直せるかどうかは、技術覇権争いの行方にも影響する問題になりつつあります。