カリフォルニア州の連邦地方裁判所は 2026 年 8 月 28 日、トランプ政権が AI 企業 Anthropic に対して行った「サプライチェーンリスク」指定は違法だとする判決を下しました。
リタ・リン判事は 59 ページの判決文で、国防長官ピート・ヘグセスによる指定を「違法な報復行為」と断じ、憲法修正第 1 条(言論の自由)への違反と、正当な手続きなしに制裁を科したことを問題視しました。
事の発端は 2025 年 7 月に遡ります。Anthropic とペンタゴンは、AI モデル「 Claude 」を機密ネットワークで利用する初のフロンティアモデルとして契約を結び、ペンタゴン側は Anthropic の利用規約を守ることに同意していました。ところが 2026 年 2 月 24 日、ヘグセス長官は CEO ダリオ・アモデイに 3 日間の期限を与え、2 億ドル(約 300 億円)の既存契約からいわゆるガードレール条項——倫理的な使用を行うよう制限する条項——を外すよう要求します。Anthropic がこれを拒むと、2 月 27 日にトランプ大統領は全連邦機関に対して同社 AI の利用停止を命令。ヘグセス長官もサプライチェーンリスク指定を正式に発表しました。
両者の対立の核心は、軍事目的での AI 利用をどこまで認めるかという点にありました。国防省は機密性の高い軍事・情報活動に関して「あらゆる合法的な用途」で Claude を使いたいと主張した一方、Anthropic は国民への大規模監視と完全自律型兵器への利用だけは認められないという立場を崩しませんでした。
リン判事は判決の中で、政府の行動は安全保障上の実質的な懸念ではなく、「Anthropic の姿勢を問題視し、公の場で制裁を示したいという意図」に基づくものだったと認定しました。「国家安全保障を持ち出せば、政府を批判する企業に報復できるわけではない」とも明言しています。さらに判事は、指定後もペンタゴンが Anthropic との取引継続を模索していた事実を挙げ、「本当に安全保障上の脅威だと考えていたなら、そのような行動とは矛盾する」と指摘しました。
ビジネスへの影響という観点では、Anthropic 幹部はこの指定によって数十億ドル規模の損失と信用の毀損が生じると訴えていました。ただし Amazon・ Google・ Microsoft といった主要パートナーは国防省の指定後も商業顧客への Claude 提供を止めず、同社の実質的な財務ダメージは限定的にとどまりました。また 2026 年 8 月の月間収益は 115 億ドル(約 1 兆 7,250 億円)と前年同期比 14 倍に達しており、指定がビジネスの勢いを止めるには至りませんでした。
今後の焦点は控訴審の行方です。政府側は判決を不服として上訴する見通しで、Anthropic は民間政府契約からの排除をめぐる第 2 の訴訟もワシントンで抱えています。仮に両訴訟で勝訴したとしても、ペンタゴンが Anthropic との協業を再開する法的義務は生じません。同社のスポークスパーソンは「この指定が違法と認められたことを歓迎する。引き続き政府と建設的に協力し、AI が国家安全保障とすべてのアメリカ国民の利益に貢献できるよう取り組む」とコメントしています。
