2026年9月4日、TechCrunch および Inc.Magazine が複数の調査結果をもとに報じた内容から、AI スタートアップのビジネスモデルに見過ごせない課題が見えてきました。
シアトルのベンチャーキャピタル Madrona が企業の IT 担当者 150 名を対象に行った調査によると、回答した企業の 77% が半年ごと、あるいは随時のタイミングで AI ベンダーの見直しを行っていることがわかりました。これは従来の SaaS ビジネスとは大きく異なる動きです。これまでの法人向けソフトウェアでは、複数年契約を結ぶことで一度導入したベンダーが乗り換えられにくい状況が生まれていました。しかし AI の世界ではその構図が崩れており、Madrona はこれを「入るのも早ければ、出るのも早い」と表現しています。
こうした頻繁な見直しは、スタートアップの売上の実態にも影を落としています。TechCrunch の取材に応じた複数の投資家によると、ARR(年間経常収益)が 1 億ドル(約 150 億円)を超えたと発表した有名スタートアップの中には、実際に顧客から得ている収益がその数字を大きく下回るケースがあったといいます。契約は結んでいても導入が進んでいなかったり、実装に時間がかかっていたりして課金できる状況まで達していないものが含まれていたからです。
導入の難しさは、別の数字にも表れています。同調査では、試験運用(パイロット)から実際の本番稼働に移行できた AI プロジェクトは半数に満たないという結果が出ています。2025年に MIT が「企業 AI プロジェクトの 95% は費用対効果の面で成果を出せていない」と報告していたことと比べると前進はしていますが、まだ十分とは言えない水準です。
この状況を受けて、課金モデルの見直しを求める声が高まっています。a16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)が AI 製品の購買担当者 50 名に行った調査では、過半数が「使った量ではなく、得られた成果に応じて料金を払いたい」と答えました。a16z のパートナーである Tugce Erten 氏と Sarah Wang 氏は、処理したレポートの件数や解決したサポートチケットの数など、目に見える成果に料金を連動させることで、買う側にとっても売る側にとっても納得感のあるビジネスになると主張しています。同調査ではまた、購買担当者の 57% が導入から 3 ヶ月以内に効果を実感したい、と AI 導入の費用対効果に関してスピード感を重視していることもわかっています。
投資家の間では、AI スタートアップの財務的な性質そのものを見直す動きが出ています。従来のソフトウェア会社であれば、一度導入すると切り替えが難しい性質を持っていたため、複数年の契約が見通せることで将来の収益がある程度予測できました。ところが AI スタートアップの場合、乗り換えが頻繁に起きるようになっているため、今期の売上があっても来期の収益が保証されません。これはちょうど、大型の受注案件を取り続けることで売上を維持するコンサルティング会社や SI 事業者に近い構造です。ARR が 5,000 万ドル(約 75 億円)あっても、それが翌年も続く保証はなく、常に新規契約や更新を獲得し続けなければならない。投資家にとってはそれだけリスクの読みにくい投資先になっています。
2026年の世界の企業向けテクノロジー支出は IDC の予測で 4.25 兆ドル(約 6,375 兆円)に達する見通しで、市場規模は拡大しています。ただ、企業側の「試すことには前向き、長期契約には慎重」というスタンスがいつまで続くのか、あるいは市場が成熟するにつれて契約の安定性が戻ってくるのかは、現時点ではまだ見通せません。
