DeepSeek や Z.ai といった中国発の AI モデルが、OpenAI や Anthropic の最先端モデルに匹敵する性能を大幅に低いコストで提供できるとして、米国企業の間で採用が広がっています。
AI モデルの流通プラットフォームを運営する OpenRouter のアナリスト Justin Summerville 氏は、中国製モデルの価格は米国主要モデルと比べて「60〜90% 安い」と述べています。実際の数字を見ると、その差は歴然です。2026 年 6 月 28 日時点では、OpenAI の GPT-5.5 は 100 万トークンあたり入力 $5(約 750 円)・出力 $30(約 4,500 円)、Anthropic の Claude Opus 4.8 は入力 $5(約 750 円)・出力 $25(約 3,750 円)です。一方、DeepSeek V4 Flash は入力 $0.14(約 21 円)・出力 $0.28(約 42 円)と、ひと桁以上安く利用できます。コーディング作業を月単位で比較すると、GPT-5.5 では $12,000(約 180 万円)かかる作業が DeepSeek V4 Flash なら $252(約 37,800 円)で済み、その差は約 48 倍に達します。
実際に移行を決断した企業も出ています。AI スタートアップの Lindy は 2026 年 6 月、Claude から DeepSeek へすべてのトラフィックを切り替えました。CEO の Flo Crivello 氏は、この判断により数ヶ月以内に数百万ドル規模のコスト削減が実現できると見込んでいます。Airbnb の CEO Brian Chesky 氏も、Alibaba の Qwen モデルを「高速・高品質・低コスト」として社内で積極的に活用していることを公言し、米国下院の調査を受けるほど注目を集めました。ベンチャーキャピタル大手 Andreessen Horowitz の Martin Casado 氏によると、オープンソースモデルを採用しているスタートアップのうち約 80% が中国製を選んでいるといいます。
性能面でも差は縮まっています。Z.ai の GLM 5.2 は、エージェント型コーディングの評価指標「FrontierSWE」で 74.4 点を記録しており、Anthropic Opus 4.8 の 75.1 点とはわずか 0.7 点差です。価格はおよそ 5 分の 1 に抑えられています。
ただし、懸念材料もあります。防衛コンサルタントの Booz Allen Hamilton は 2026 年 5 月、中国製モデルに情報漏えいのリスクがあるとする報告書を公表しました。米国下院の国土安全保障委員会と中国特別委員会も共同調査を始めており、政治的な圧力も高まっています。中国のオープンウェイトモデルは自由に利用できる一方、開発企業は中国の国家情報法のもとで政府の情報収集活動に協力する義務を負っているためです。こうしたリスクを意識する企業は、データを中国企業に直接送らず、自社サーバーや米国のクラウド事業者を経由して利用する形態を選ぶようになっています。
業界関係者の多くは、中国製モデルへの一斉乗り換えよりも、コーディング支援・文書要約・翻訳など機密性の低い業務への部分的な活用が現実的だと見ています。この競争の余波は米国勢にも及んでおり、OpenAI は大幅な値下げを検討していると報じられています。AI サービスのコスト構造は、今まさに転換点を迎えつつあります。
