米政府と OpenAI が、政府への株式拠出を通じた「ソブリン・ウェルス・ファンド(公共富裕基金)」の創設に向けて協議を進めていることが明らかになりました。
ことの発端は、 OpenAI の CEO サム・アルトマン氏が 2025 年にトランプ政権へこのアイデアを持ち込んだことです。その後、 OpenAI は 2026 年 4 月 6 日に 13 ページの政策文書として提案を正式にまとめ、 2026 年 6 月 4 日に NOTUS が報道したことで交渉の存在が広く知られるところとなりました。トランプ大統領も 2026 年 6 月 5 日、エアフォースワン機内で「米国民が事実上パートナーになる」と記者団に語り、協議の存在を公式に認めています。
この提案で注目すべきは、株式を政府に「売却」するのではなく「寄付」するという仕組みです。税金を使わずに国民が AI の成長の恩恵を受けられる点がポイントで、拠出比率は OpenAI 株式の 1 〜 5 % が検討されています。同社の時価総額は約 8,520 億ドル(約 127 兆 8,000 億円)に達しており、 1 % の寄付でも 85 億ドル(約 1 兆 2,750 億円)超の価値があります。構想のモデルはノルウェーの政府年金基金で、 AI を現代の「石油」と位置づけ、その果実を広く国民に分配しようという発想です。
これに対し、より強硬な立場をとるのがバーニー・サンダース上院議員です。同議員は 2026 年 6 月 1 日、 OpenAI ・ Anthropic ・ xAI など主要 AI 企業の株式 50 % を一度限りの税として国に移転する「アメリカン AI 主権富裕基金法」を提案しました。政府が議決権付き株式を取得し、各社の取締役会にも同数の議席を得るという内容です。アルトマン氏は公的持分という考え方自体には理解を示しつつも、 50 % という水準は行き過ぎだと反論しており、「自発的な寄付」か「強制的な課税」かをめぐる対立が今後の焦点になりそうです。
ビジネス面では、 OpenAI は 2026 年 6 月 8 日に機密扱いの目論見書( S-1 )を SEC に提出済みで、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーを主幹事として 2026 年 9 月の上場を目指しています。 IPO 時の時価総額は 1 兆ドル(約 150 兆円)超になるとの見方もあり、株式の寄付が実現すれば既存株主の持分が希薄化するという懸念も投資家の間には広がっています。
協議はまだ初期段階にあり、具体的な条件は固まっていません。政府の関与が深まれば透明性や説明責任の向上が期待できる半面、 AI モデルの開発や提供に政治的な制約が生じるリスクも否定できません。またそれとは反対に、利益相反の問題も出てきます。本来 AI 産業を規制・監督する立場にある政府が、同時にその企業の株主として利益を享受する存在になるとすれば、厳正な規制判断が下しにくくなるという構造的な矛盾が生じます。国民への利益還元という理念の裏側に潜むこうしたガバナンス上のリスクも、今後の議論で避けて通れない論点となりそうです。
