AI スタートアップの Inception Labs は、2026年9月8日、新しい AI 言語モデル「Mercury 2.5」を正式に公開しました。同社はスタンフォード大学や UCLA、コーネル大学出身の研究者が設立した企業で、大手ベンチャーキャピタルの Menlo Ventures が主導する 5,000 万ドル(約75億円)の資金調達を完了しています。Andrew Ng や Andrej Karpathy といった著名な AI 研究者も支援に名を連ねており、業界からの注目を集めています。
Mercury 2.5 の最大の特徴は、従来とは異なる文章生成の仕組みにあります。ChatGPT などの一般的な AI モデルは、内部に Transformer モデルを使い、トークン(単語に相当する単位)をひとつずつ左から右へ順番に確定させる「自己回帰型」を採用しています。Mercury 2.5 も内部では Transformer を利用していますが、文章の生成方式が根本的に異なります。「拡散型(Diffusion)」と呼ばれるこの方式では、まず回答全体の骨格を一度に作り上げてから、各部分を並列に磨き上げて完成させます。この並列処理により、公表値で毎秒 1,107 トークンという処理速度を実現しており、同程度の精度を持つ高速な従来型モデルと比べて概ね 5〜10 倍速いとされています。
速度以外にも、拡散型ならではの利点があります。従来型は一度確定させた前半を後から変更できないのに対し、拡散型は生成の途中でも前後を修正できます。またコードの途中補完や JSON の整形など、文章の任意の箇所を直接修正する作業とも相性がよいとされています。ただし、これらはあくまで構造上期待できる利点であり、最終的な回答精度が従来型を必ず上回るという意味ではありません。
精度面では、前世代の Mercury 2 から 40% 改善されたと同社は説明しており、Claude Haiku 4.5 などコスト最適化モデルと同程度の品質と位置づけています。入力の文章(コンテキスト)量は 260,000 トークンに対応し、長文書類の要約や複数ターンにわたるエージェント業務に最適化された設計となっています。料金は入力トークン 100 万あたり $0.20(約30円)、出力は $0.75(約113円)で、現在はリリース記念の 80% 引きが適用されています。API 経由では 1 億トークン分の無料枠も用意されています。
大手各社が自己回帰型モデルの性能向上を競う中、Inception Labs は拡散型という異なるアプローチで着実に実績を積み上げています。すでに数千人の開発者と数十社が本番環境での利用を開始しており、次世代のより大規模なモデルの開発も進んでいると同社は明かしています。生成 AI の主流とは一線を画す技術路線を歩む同社の動向は、業界からの注目を集めています。
