2026年 6月 15〜17 日、フランスのエビアン=レ=バンで開催された G7サミット。ウクライナやイラン情勢が議論の中心を占める中、最終日には AI をめぐる問題が首脳間の重要テーマとして浮上しました。
きっかけは、サミット直前の 6月 12日に起きた出来事です。米商務省が Anthropic に対し、輸出規制に関する指令書を発令しました。根拠となったのは 2018年に制定された輸出管理改革法(ECRA)で、Anthropic は同日中に、6月 9日にリリースしたばかりの最新モデル「 Fable 5」と「 Mythos 5」へのアクセスを全世界で停止しました。米国の主要 AI 企業が安全保障上の理由でモデルを強制停止させられたのは、これが初めてのケースです。規制の背景には、Amazon の研究者が Fable 5 を使ってサイバー攻撃に転用できる情報を引き出せたと当局に報告したことがあったとされています。
この措置が G7 の場で大きな波紋を呼びました。ワーキングランチの席上、フランスのマクロン大統領は Anthropic の ダリオ・アモデイ CEO、 OpenAI のサム・アルトマン CEO、そしてトランプ大統領らを前に、率直な懸念を口にしました。米国が判断次第で「一日にして突然アクセスを遮断できる」状態は、欧州企業や政府にとって深刻なリスクであり、AI 企業自身の信頼性も損なうと警告したのです。インドのモディ首相も同様の懸念を示し、英国のスターマー首相は英国向けの適用除外をトランプ大統領に直接求めましたが、米政権は「同盟国への例外は規制の趣旨に反する」として応じませんでした。
G7 では「トラステッド・パートナー」制度の導入が解決策として提案されました。米国と緊密な関係にある国々の認定企業・機関に対し、規制対象のモデルへのアクセスを正式なルートで認める仕組みです。ただし、どの国・企業が対象となり、何が条件になるのかは現時点でまだ固まっていません。マクロン大統領は「数週間以内に前向きな進展があると見ている」と述べ、G7 首脳は引き続き協調を深めることで合意しました。
今回の一件は、ビジネスで AI を活用する企業にとって看過できない現実を浮き彫りにしました。どれほど優れたサービスであっても、米政府の判断ひとつで一夜にしてアクセスが失われうるという事実です。フランスの Mistral やドイツの Aleph Alpha といった欧州勢が「米国にスイッチを切られる心配がない」という点を前面に打ち出し始めており、AI 調達における地政学的リスクは、国家や企業が真剣に検討すべき課題になりつつあります。
