ハリウッドの映画・TV スタジオを代表する業界団体 MPA(モーション・ピクチャー・アソシエーション)と、TikTok を運営する ByteDance は 2026 年 8 月 17 日、AI による動画・画像生成における著作権保護の枠組みを定めた覚書(MOU)を締結しました。MPA が AI 企業と正式な著作権保護の合意を結ぶのは今回が初めてです。
ことの発端は、Tom Cruise と Brad Pitt が戦うという AI 生成動画がネット上で急速に拡散した出来事でした。これを問題視した MPA は 2026 年 2 月、ByteDance に対して使用停止を求める書面を送付し、著作権侵害は「バグではなく仕様だ」と強く批判しました。Disney、Netflix、Warner Bros.、Paramount、Sony もそれぞれ独自の警告書を発送しており、俳優組合 SAG-AFTRA の会長 Sean Astin 氏の肖像が無断で使用されていたことも明らかになっています。
この批判を受け、ByteDance は 2026 年 3 月に AI 動画生成モデル「Seedance 2.0」の世界展開を自主的に止め、知的財産の保護強化を表明しました。双方の協議を経て、2026 年 7 月にリリースされた Seedance 2.5 と画像生成モデル Seedream 5.0 Pro には、透かし技術(ウォーターマーク)、コンテンツの来歴を証明する C2PA 規格、顔認識のブロック機能、コンテンツフィルターが新たに組み込まれています。
一方、今回の覚書には限界もあります。保護の対象は AI が生成するコンテンツの出力段階に限られており、モデルの学習に著作権コンテンツが無断で使われた問題には踏み込んでいません。この点は 2026 年 9 月 8 日から北カリフォルニア連邦地裁で始まる「Andersen vs. Stability AI」裁判に持ち越される形です。覚書自体に法的拘束力はなく、各スタジオが個別に訴訟を起こした場合の盾にもなりません。
なお、ByteDance の法人向け Seedance プラットフォームは 2026 年 6 月 23 日時点で年間経常収益(ARR)が 20 億ドル(約 3,000 億円)に達しており、ビジネスとしての勢いは衰えていません。ただし、ウォーターマークやフィルターの回避手段がすでに内部テストで見つかっており、技術的な実効性をどう担保するかが引き続き問われます。
今回の合意は、ハリウッドが生成 AI に対して訴訟一辺倒ではなく、業界ルールの構築へと軸足を移しつつあることを示す動きとして注目されています。同様の枠組みを他の AI 動画生成企業にも求めていくかどうか、MPA の今後の対応が焦点となりそうです。
