2026 年 8 月 5 日、Alphabet は AI 部門のトップ人事を刷新しました。Google DeepMind を率いてきた Demis Hassabis 氏が CEO を退き、同部門の会長と Alphabet 全体の最高科学者(Chief Scientist)を兼務する新たな役職に就きます。日常的な経営は、これまで CTO を務めてきた Koray Kavukcuoglu 氏が引き継ぎ、CEO Sundar Pichai 氏に直接報告する体制となりました。
Hassabis 氏は、タンパク質構造予測 AI「AlphaFold」の開発により 2024 年のノーベル化学賞を共同受賞した研究者です。社員への書簡では「AGI(汎用人工知能)の実現は目前に迫っており、次の一手を誤らないことが人類にとって重大な意味を持つ」と記しています。今後は経営の第一線から退き、AGI 戦略の立案や AI の科学的応用に専念する見通しです。また、DeepMind から派生した AI 創薬企業「Isomorphic Labs」の CEO も引き続き兼任し、そちらへの関与を深めていく意向を示しています。
同じタイミングで、Google に 27 年間勤務した Jeff Dean 氏の退社も明らかになりました。Dean 氏は 1999 年に社員番号 30 番として入社した生え抜きのエンジニアで、Google の検索基盤や機械学習技術の礎を築いた人物として知られています。退社後は、AI を使って科学・工学の研究プロセスを自動化する公益法人「Discovery Loop」を共同で立ち上げ、自ら CEO に就任する予定です。同社は、人が一つずつ手順を追って行ってきた研究サイクルを、機械が並行して数千の実験を提案・実行・分析することで大幅に短縮することを目指しています。まずは機械学習と工学領域の自動化から着手し、将来的にはハードウェア設計・創薬・クリーンエネルギー分野への応用を計画しています。
資金調達面では、Radical Ventures と Khosla Ventures が共同でシードラウンドをリードし、Lightspeed・Kleiner Perkins・Doerr Capital・Alphabet が参加しています。調達額とバリュエーションは非公開で、発表時点ではまだクローズ前の段階です。Pichai 氏は Alphabet が投資家として参加するほか、少なくとも初年度の計算リソースを提供することを明らかにしました。
今回の発表を受け、Alphabet の株価は約 5 %下落しました。市場の懸念には理由があります。フラッグシップモデル「Gemini」の最新版は 6 月のリリース予定から遅れており、OpenAI や Anthropic との競争で出遅れているという見方が広がっています。さらに、Gemini の中心的な開発者だった Noam Shazeer 氏が OpenAI へ、AlphaFold でノーベル賞を受賞した John Jumper 氏が Anthropic へ移籍したとも報じられており、優秀な人材の流出に歯止めがかかっていません。上場前の株式を報酬として提供できる競合他社と、すでに株式公開済みの Alphabet では、優秀な人材を惹きつける条件に構造的な差があることも指摘されています。
今回の人事は単なる幹部交代にとどまらず、Alphabet が AI の軸足を「科学的探求」から「製品としての大規模普及」へと移していく意思表示とも受け取れます。年間最大 2,050 億ドル(約 30 兆 7,500 億円)規模の設備投資が続く中、直近四半期では初めてキャッシュフローがマイナスに転じており、AI 開発をめぐる消耗戦は続いています。
