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【 Editor’s Insight 】AI は本当に若者の仕事を奪うのか?

【 Editor’s Insight 】AI は本当に若者の仕事を奪うのか?
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定説になりつつある「若者の仕事が消える」論

「 AI が若者の仕事を奪う」という見方は、ここ 1 年ほどで定説になりつつあります。きっかけの一つは、 Anthropic の Dario Amodei CEO が 2025 年 5 月 28 日に公開された Axios のインタビューで、 AI が今後 1〜5 年でエントリーレベルのホワイトカラー職の半分をなくし、失業率を 10〜20% に押し上げる可能性があると警告したことでした。

データもこの見方を一定程度裏付けています。スタンフォード大学デジタル経済ラボが米 ADP (企業の給与計算を代行する米国の大手企業)が処理する、数百万人分の給与データを分析した論文「 Canaries in the Coal Mine? 」では、生成 AI の普及後、 AI の影響を受けやすい職種で働く 22〜25 歳の雇用が相対的に 13% 減少したと報告され、 2026 年 8 月に公表された更新版ではその差が 19% にまで広がったと報じられています。ポイントは、同じ職種でもベテラン層の雇用は安定、あるいは増えていること、そして減少の主因が解雇ではなく「採用の手控え」にあることです。ハーバード大学の研究者による分析でも、生成 AI を導入した企業では、導入していない企業に比べてジュニア層の雇用が大きく減る一方、シニア層の雇用は伸び続けていたことが示されています。

ただし、この流れをそのまま日本に当てはめるのは早計です。リクルートワークス研究所が 2026 年 2〜3 月に実施した調査では、 AI などの進展が新卒採用数に与える影響について「変わらない」と答えた企業が 68.8% と最も多く、現時点で日本の新卒採用ニーズが縮小している状況ではないようです。

本当に脅かされるのは誰か

筆者は、この「若者が AI に仕事を奪われる」という構図そのものに疑問を持っています。むしろこの先 AI によって立場を脅かされるのは、日々の業務に追われ、自分の仕事のやり方を AI 前提にアップデートできない 30〜50 代になるのではないでしょうか。

NVIDIA の Jensen Huang CEO は 2025 年 5 月 6 日、ミルケン研究所のカンファレンスで「 AI に仕事を奪われるのではない。 AI を使いこなす人に仕事を奪われるのだ」という趣旨の発言をしています。この言葉は、年齢に関係なく当てはまります。

AI は「経験の差」を縮める

これまで、仕事のやり方を一通り覚えるには何年もかかるのが普通でした。先輩に教わり、失敗を重ねながら、少しずつ一人前になっていく。ところが AI のサポートがあれば、この「習熟の時間」を大幅に縮めることができます。スタンフォード大学と MIT の研究者が 5000 人超のカスタマーサポート担当者を対象に行った研究では、 AI アシスタントの導入で生産性が平均 14% 向上し、経験の浅い担当者に限ると 34% 改善した一方、熟練者への効果はほとんどありませんでした。研究者らは、 AI が優秀な社員のノウハウを新人に広げ、習熟を早めた可能性を指摘しています。 AI は、経験の差を縮める道具でもあるのです。

「先輩」という立場が揺らぐ

そうなると、こうしたシーンで立場が微妙になるのは 20 代後半から 30 代です。これまでは、少し早く仕事に就いて手順を知っているというだけで、新人に対して優位に立つことができました。しかし、新人が AI に聞けば手順もノウハウもすぐに手に入るなら、その優位は薄れます。先輩に教わる必要がなくなれば、両者は同じ土俵で戦うことになります。

そこで日々の忙しさを理由に仕事のやり方を AI ネイティブに切り替えられなければ、 AI を使いこなす新卒に置き換えられても不思議ではありません。企業の側から見れば、同じ成果を出せるのであれば、人件費の安い AI ネイティブの若手を採るほうが合理的だと考えるのは自然なことです。

中間管理職も例外ではない

この構図は 40〜50 代にも当てはまります。情報を集めて整理する、部下の成果物をチェックする、報告をまとめて方向性を決める。中間管理職が担ってきた業務の多くは、 AI が得意とする領域と重なっています。

実際、 Amazon の Andy Jassy CEO は 2025 年 6 月 17 日の社内メモで、 AI の活用による効率化で、今後数年のうちに本社部門の人員が減る見通しを示しました。同社はそれ以前から、管理職に対する一般社員の比率を 15% 高める方針を掲げており、 Microsoft も人員削減にあわせて管理階層の削減を進めています。組織をフラットにし、管理の層を薄くする動きは、 AI によってさらに加速していくでしょう。

日本の雇用慣行のもとで起きること

もっとも、日本では解雇規制が厳しく、雇用の流動性が一気に高まるとは考えにくいのも事実です。ただ、解雇しにくいからこそ、企業は「誰を新たに採るか」「誰に重要な仕事を任せるか」という入口と配置で調整することになります。表立ったリストラがなくても、 AI を使いこなせない人が重要な仕事から少しずつ外れていく、という形で変化は進んでいくはずです。

PwC の 2026 年版「 AI Jobs Barometer 」では、 AI の影響を受けやすい職種のエントリーレベル求人で、判断力やリーダーシップなど、従来は経験者に求められてきたスキルが要求されるようになっていることが示されました。エントリージョブはなくなるのではなく、「最初から一定のアウトプットを出せる人」向けのものに変わりつつあると言えます。

学生の自由な時間こそが武器になる

だとすれば、今大学生に必要なのは「 AI に職を奪われる」と嘆くことではありません。社会人と比べて、学生には自由に使える時間があります。その時間を使って AI に徹底的に触れ、先端 AI で何ができるのかを自分の手で試しておくことが、何よりの備えになります。資料作成でもプログラミングでも、動画制作でも、小さなサービスづくりでも構いません。実際に手を動かした経験は、入社後に「 AI ネイティブな即戦力」として評価される土台になります。

もう一つ、学生が有利だと考えられる理由があります。 ChatGPT が公開されたのは 2022 年 11 月 30 日で、生成 AI が広く使われるようになってから、まだ 4 年も経っていません。生成 AI を業務にどう組み込むかについて、長い経験を積んだ専門家と呼べるような人は、社会には実質的に存在しないと言ってよいでしょう。

つまり AI の活用に関しては、社会人も学生もほぼ同じスタートラインに立っています。そうであれば、日々の業務に追われる社会人よりも、時間に余裕があり、先端の AI を徹底的に試せる学生のほうが、今後数年で先を行く可能性は十分にあります。入社後に現場で AI の使い方を頼られたり、新設される AI 関連の部署に配属されたり、経営層から直接意見を求められたりと、これまでの年功とは異なる構図が生まれることも考えられます。

エントリージョブは、 AI の登場によって消えるというより、形を変えつつあります。その変化を脅威と見るか、経験の差を一気に埋めるチャンスと見るか。専門家がまだいない今は、何も起きていない時期よりもむしろ、学生が現場で自分の立場を一気に高められる機会が多い時代だと筆者は考えています。(逆に20代後半〜50代は、日々時間がない中でも危機感を持って積極的に自己変革に取り組まなければ時代に完全に取り残されてしまいます)

筆者自身、 1990 年代後半から 2000 年代前半のインターネット勃興期に、同じような職場環境を見聞きしてきました。インターネットを当たり前に使いこなす学生や若手が、現場で多くのチャンスをつかんでいく様子を目の当たりにしてきたのです。いま AI をめぐって起きつつあるのも(少なくともここ数年、しかも日本の雇用環境下では)それと同じ構図だと言えるのではないでしょうか。

AI で若手の仕事が消える、という言説を聞くたびに若干の違和感を感じます。