米国のロボタクシー市場で、Alphabet 傘下の Waymo が事業拡大のペースを上げています。2026 年 9 月 1 日、Waymo はデンバー、サンディエゴ、タンパの 3 都市で一般利用者向けの完全無人ライドを開始し、完全自動運転サービスの対象を 14 都市に広げたと発表しました。新規の 3 都市ではまず数十台規模で始め、段階的に数百台規模へ増やす方針です。すでにフェニックス、サンフランシスコ・ベイエリア、ロサンゼルス、オースティン、アトランタなどで有償運行を行っており、2026 年中にはロンドンで初の海外展開も計画しています。ニューヨークと東京でもテスト走行を進めています。
Waymo:数字で見る先行者の規模
Waymo の強みは、都市数そのものよりも、その裏付けとなる運行実績にあります。同社は 2026 年 3 月までに、乗客を乗せた完全無人走行(rider-only)の累計が 2 億 2,060 万マイル(約 3 億 5,500 万 km )に達したと公表しています。乗車回数も、2025 年の年間 1,500 万回から、2026 年 2 月時点で週 40 万回超(年換算約 2,080 万回)へと増えています。2026 年末には週 100 万回超(年換算約 5,200 万回)の乗車を目標に掲げており、技術実証の段階から都市交通サービスとしての高頻度運行へ移りつつあります。
資金面でも足場を固めています。Waymo は 2026 年 2 月に 160 億ドル(約 2.5 兆円)を調達し、ポストマネー評価額は 1,260 億ドル(約 19.7 兆円)となりました。2024 年 10 月の前回ラウンドでは 56 億ドル(約 8,700 億円)の調達で評価額は約 450 億ドル(約 7 兆円)でしたので、約 16 か月で評価額は 3 倍近くに膨らんだことになります。ロボタクシー事業は、車両の調達や改造、デポや充電設備、遠隔支援体制、都市ごとの地図整備や許認可対応など、都市単位で運営基盤を複製していく必要のある資本集約的なビジネスです。Waymo は、その資金力と既存の運行から得られるデータ量の両面で、現時点では最も有利な立場にあると言えます。
Zoox:専用車両を武器に商用化の入口へ
Amazon 傘下の Zoox は、Waymo とは異なるアプローチを取っています。既存の市販車を改造するのではなく、ハンドルもペダルも運転席もない専用設計の EV を中心に据え、向かい合わせの 2 列シートという車内設計で、乗客体験をタクシー用途に最適化しています。
Zoox は 2026 年 7 月 30 日、米道路交通安全局( NHTSA )から、この専用ロボタクシーについて初の限定的な商用運行承認を獲得しました。最長 2 年間、年 2,500 台までの配備が認められ、州や地方の条件を満たせば有償運行に進める道が開かれました。これを受けて 2026 年 8 月 10 日にはラスベガスで初の有償サービスを開始し、料金体系は基本料金に時間と距離を加える一般的なタクシーに近い構造です。
同社は 2026 年 9 月にヒューストンとサンディエゴでも地図作成とテストを始める計画を発表しており、展開都市は 12 都市に広がる見通しです。ただし、ロボタクシーの展開プロセスは、有人でのマッピング、セーフティドライバー付きテスト、従業員や招待者向け運用、限定公開を経てようやく一般向けの商用サービスに至るという段階的なものです。12 都市の多くはまだ初期段階にあり、Waymo の「 14 都市ですでに完全無人サービス運行」とは商用化の成熟度に差があります。ただし、カリフォルニア州ヘイワードの工場はフル稼働時に年 1 万台超の組立能力を目標としており、今のスピード感で専用車両の量産とサービス運営を一体で進められれば、長期的には追いついてくる可能性もあります。
Tesla:都市数は増えるが、実績の開示は限定的
Tesla は 2026 年 7 月時点で、Robotaxi を米国の 7 大都市圏で展開中としています。オースティン、ダラス、ヒューストン、マイアミ、オーランド、タンパでは無人運行を拡大中とする一方、サンフランシスコ・ベイエリアでは人間のセーフティドライバーが同乗していることもあり、この 7 都市圏という数字を Waymo の完全無人サービス都市数と同列に扱うのは適切ではありません。
2026 年第 2 四半期の決算資料によると、Robotaxi の累計有償走行距離は約 240 万〜 250 万マイルで、うち完全無人走行は 6 都市・ 2 州で 38 万マイル超と説明されています。こちらも Waymo の 2 億 2,060 万マイルと比べると、集計基準や対象期間の違いを考慮しても、事業規模には桁違いの差があります。また Tesla は、稼働フリート台数、週当たりの有償乗車回数、介入率や遠隔支援の頻度といった指標を十分に開示しておらず、都市数の拡大と実際に大量の乗客を運べているかどうかは別問題です。
もっとも、Tesla には大規模な EV 製造能力と充電網、そして FSD を搭載した膨大な既存車両群があります。カメラ中心の FSD が安全性や規制の課題を越えて広範に無人化できれば、LiDAR 搭載の専用車両を増やす Waymo よりも速く低コストで供給を大幅に増やせる可能性は残っています。ただし、専用車「 Cybercab 」の量産や無人運行の大規模化は、まだこれからの課題です。
まとめ:市場規模の拡大とともに競争は激化へ
ロボタクシー市場は、2026 年時点では世界で年間 10 億ドル(約 1,560 億円)前後の小さな市場にすぎません。しかし今後の見通しは大きく、Goldman Sachs は世界の商用ロボタクシーフリートが 2025 年の約 7,000 台から 2030 年に約 100 万台、2035 年には約 600 万台へ増え、市場規模は 2035 年に世界で約 4,150 億ドル(約 65 兆円)、米国だけでも 480 億ドル(約 7.5 兆円)に達すると予測しています。MarketsandMarkets のように 2030 年時点で 457 億ドル(約 7.1 兆円)を見込む予測もあり、機関ごとに幅はあるものの、2030 年代前半に数千億ドル規模の市場が立ち上がるという見方は共通しています。
つまり、今後数年間は、この巨大市場の主導権をどの企業が握るかを決める助走期間と見ることができます。現時点では Waymo が実績・資金・データのすべてで先行していますが、Zoox の専用車両と Amazon の資本、Tesla の量産力と既存顧客基盤は、いずれも市場の勢力図を変えうる要素です。加えて、中国では Baidu の Apollo Go や Pony.ai などが米国以上のスピードで台数を伸ばしています。数十兆円規模へ成長が見込まれる市場を奪い合う競争は、今後さらに激しさを増していくことになりそうです。
