Microsoft が開発した AI 診断システム「MAI-DxO」が、複雑な医療ケースで 83.2% という正診率を記録し、参考資料を手元に置いた一般内科医の 36.1% を大きく超えたことが明らかになりました。救急外来のケースでも 80.3% の正診率を達成しており、比較対象の医師( 46.8% )を上回っています。この研究は専門家による審査を経たうえで、 2026 年 10 月 22 日付の科学誌『 Science 』に掲載されました。
このシステムの仕組みは、複数の AI エージェントが専門医チームのように連携し合うというものです。患者に質問を重ね、必要な検査を判断し、エージェント同士で議論しながら診断を絞り込んでいきます。最初の検査を指示するまでに平均 25.5 回の質問を行う点が特徴的で、医師の平均 5.6 回と比べて事前に多くの情報を集める設計です。 OpenAI の GPT 、 Google の Gemini 、 Anthropic の Claude 、 Meta の Llama など主要な AI モデルと連携して動作します。
コストの観点でも注目すべき数字があります。 GPT-5 との組み合わせで予算制限なしの場合、 1 ケースあたり平均 5,431 ドル(約 81 万円)で 83.2% の正診率を達成しています。コスト制約を設けると 2,241 ドル(約 34 万円)で 80.9% 、さらに絞ると 1,303 ドル(約 20 万円)で 79.6% と、精度をほぼ維持しながら費用を抑えられる柔軟性も示しました。また、 MAI-DxO のような複数エージェントの連携構造を持たない汎用 AI モデルを単体で診断に使った場合と比べると、同等以上の精度をより少ない処理ステップで達成しており、診断にかかるコストを約 70% 削減できたと論文は述べています。複数の AI を組み合わせることで、単体モデルの非効率な試行錯誤を減らせた結果と考えられます。
ただし、この研究には見落とせない前提条件があります。比較対象となったのは 56 名の一般内科医のみで、専門医や多職種チームとの比較は行われていません。評価環境もテキストベースの模擬条件に限られており、実際の病院での有効性はまだ検証されていません。また、使用された症例は診断が特に難しいケースに偏っているため、日常的な外来診療をそのまま反映しているわけではないことも論文自体が認めています。
次のステップとして、 Microsoft はボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センターと共同で実患者を対象とした臨床試験を計画しています。同意した患者が実際にシステムを使用し、その結果を担当医師の評価と比較する形式で、救急や緊急外来での実証を目指します。試験の開始時期や製品としての提供時期はまだ公表されていません。
