Metaが開発した AI アシスタント「Muse」が、2026 年 9 月 8 日に米国・カナダ限定でサービスを開始しました。リリースからわずか 22 日で米国累計 500 万ダウンロードを突破し、米 App Store の無料ランキングでも 12 日間連続 1 位を維持しています。ChatGPT が同じ水準に達するまで 56 日、Grok は 103 日かかったことを踏まえると、Muse の立ち上がりの速さは際立っています。
Muse の最大の特徴は、旅行の予約やメールの送信、ショッピング、フォームへの入力といった日常的な作業を、ユーザーに代わってこなせる点にあります。「何かを調べてくれる AI」ではなく、「実際に手続きまで完結させてくれる AI」という点が従来の生成 AI との大きな違いです。Walmart や Best Buy、Sephora といった大手小売との連携も済んでいる一方、Amazon は同社の広告事業への影響を懸念し、9 月 21 日に自社プラットフォームへの Muse のアクセスを遮断しています。
Muse のリリースが市場に波紋を広げた背景には、「消費者慣性(consumer inertia)」という概念があります。これは、利用者が「面倒だから今のサービスを使い続ける」という心理のことで、旅行代理店サイトや保険会社など、多くの企業がこの慣性に支えられて収益を上げてきました。Muse のような AI がその慣性を取り除いてしまうと、乗り換えが一気に加速しかねないと投資家は警戒しています。
実際、Expedia の株価は 7% 下落、Airbnb は 6% 下落、Booking Holdings も 5% 下落しました。旅行関連企業全体では、時価総額にして約 540 億ドル(約 8 兆 1,000 億円)が吹き飛んだ計算になります。金融セクターでも S&P 500 の金融指数が約 2% 下落し、Allstate は 5.5%、Charles Schwab は 6% 超の下げを記録しました。保険や証券も、顧客が「なんとなく今の会社を使い続ける」慣性に支えられている面が大きく、AI が比較・乗り換えを容易にすれば、既存の顧客基盤が切り崩されるという懸念が売りを誘いました。
Goldman Sachs は、今後、通信・保険・公益サービスを特に注意すべき業種として名指しし、AT&T・T-Mobile・Allstate・Progressive・Netflix・Paramount を「消費者慣性に依存した銘柄」と位置付けています。一方、決済インフラを担う Visa や Mastercard については、AI エージェントの普及によって取引件数が増えることから、恩恵を受ける側だと分析されています。
Meta 株は 2% 上昇し、9 月の月間上昇率は 25% に達しました。料金体系は無料プランに加え、月 $20(約 3,000 円)と月 $100(約 15,000 円)の有料プランを用意しており、Muse により生じる取引手数料も収益源に組み込まれています。ウォール街の一部試算では、2027 年末までにMetaの現在の 10 億ユーザーのうち 3% 以上がなんらかの有料サービスに課金した場合、年間約 108 億ドル(約 1 兆 6,200 億円)の売上増になるとも見られています。
ただし、ダウンロード数が多いことと、実際に AI 経由で決済が行われることは別の話です。クレジットカード情報を AI に預けることへの心理的な抵抗は根強く、既存サービスへの実質的な影響がどれほどになるかは、まだ見通しが立っていないのが実情です。
