2026年に入り、テクノロジー業界では人員削減の動きがさらに加速しています。
調査会社 TrueUp によると、2026年はこれまでに363社で人員削減が行われ、約 15 万人が職を失いました。1 日あたり約 974 人が削減されている計算で、前年より 44% 速いペースです。また、アウトプレースメント会社 Challenger, Gray & Christmas によれば、AI は3カ月連続で人員削減の最大の理由に挙げられています。2025 年だけで約 5 万 5,000 件、202 3年以降の累計では 7 万 1,000 件超の人員削減が、AI 導入に起因するとされています。この数字は、AI による雇用への影響が一時的なものではないことを示しています。
個別企業の動きも目立っています。
Jack Dorsey 氏が率いる決済企業 Block は、従業員数を 1 万人から 6,000 人未満にまで絞り込みました。これは、AI を理由とした企業単体のレイオフとしては、史上最大規模とされています。発表直後、同社の株価は 22% 上昇しました。
Oracle も2026年4月1日に最大3万人を削減したと報じられており、Amazon も同年中に1万6,000人の人員削減を実施しています。Microsoft では、CEO の Satya Nadella 氏が社内コードの30%をAIが生成していると明らかにしており、2025 年 5 月の大規模な人員削減では、対象者の 40% 以上がソフトウェアエンジニアでした。
こうした企業に共通しているのは、AI による効率化を理由に人員削減を発表すると、株価が大きく上昇するという点です。市場は「AIを活用して人件費を削減できること」を、収益改善につながる好材料として評価しています。この構図が、繰り返し確認されているのです。
一方で、AI 産業の内側では、急速な富の蓄積が進んでいます。
AI チップ開発企業の Cerebras Systems は、2026年5月14日に上場しました。初日の終値は公開価格を 68% 上回り、時価総額は約 950 億ドル、約 14 兆 2,500 億円に達しました。OpenAI は 2026 年 3 月、852 億ドル、約 12 兆 7,800 億円の企業評価額で、1,220 億ドル、約 18 兆 3,000 億円を調達しています。
Forbes の2026 年版長者番付では、AI 関連の富豪が 86 人に上り、その合計資産は約 2.9 兆ドル、約 435 兆円に達しています。また、米連邦準備制度の統計では、2025 年末時点で上位 1% の富裕層が全資産の 31.7% を保有しており、これは同制度の記録上、過去最高の水準です。
雇用が失われているまさにその瞬間に、ごく一部の人々が桁違いの富を手にしている。ここに、この問題の核心があります。
もっとも、AI が本当に人員削減の直接的な理由なのかについては、疑問の声もあります。著名ベンチャー投資家の Marc Andreessen 氏は、「AIは経営の失敗を隠すための都合のよい言い訳として使われている」と指摘しています。実際、Dorsey 氏自身も、パンデミック期に過剰採用を行っていたことを後に認めています。
つまり、多くの企業では、AI による効率化と、過去の採用拡大の反動という二つの要因が重なっている可能性があります。そのため、「AI が原因」という説明をそのまま受け取ることができないケースも少なくありません。
こうした状況を受けて、アメリカ社会の空気も確実に変わりつつあります。
2026 年 1 月の New York Times・Siena 世論調査では、有権者の 65% が「アメリカの中産階級的な生活水準は、もはや手の届かないものになっている」と回答しました。また、76% のアメリカ人が物価高を最大の経済的懸念として挙げており、この割合は1年前の 58% から大きく上昇しています。
企業が過去最高益を更新し、AI 長者が次々と生まれる一方で、多くの労働者は職を失い、物価高に苦しんでいる。この現実は、社会に強い不公平感を生んでいます。かつて「テクノロジーで世界を良くする」という言葉で大衆の支持を集めていたシリコンバレーの起業家たちは、いまや富と権力を独占する存在として、批判的に見られるようになっています。
またこの状況は、まだ先行きへの懸念が強くあります。
世界経済フォーラムの 2025 年版「雇用の未来レポート」では、AI の影響により、41% の雇用主が 2030 年までに従業員数を減らす計画だとしています。企業業績の改善と雇用の喪失が同時に進むこの構図は、経済格差と社会的摩擦をさらに深刻化させる可能性があります。
歴史を振り返っても、富の集中と大規模な雇用喪失が重なった局面が、静かに収束した例はほとんどありません。そうした過去の事例に共通するのは、技術や経済構造の変化が生み出した格差が、放置されれば社会的緊張や政治的急進化、あるいは大規模な制度改革として表面化してきたという点です。今回のAI がもたらす変化がどの経路をたどるかは予断を許しませんが、アメリカ社会はこの問題をどう吸収し、どのような政策的・社会的反応を示すのか。
投資家 Ray Dalio や歴史学者 Niall Ferguson など、識者の中に現在を第二次世界大戦が始まる前の1930年代の状況に似ていると唱える人が増えてきていますが、アメリカ国内の社会不安がどこに着地するのか、今後数年が重要な焦点となりそうです。
