企業の AI 活用が急拡大する中、コストを顧みずに AI の使用量を増やし続ける「トークンマキシング」と呼ばれる企業文化が問題視され始めています。AI モデルの処理単位である「トークン」の消費量を、成果の代わりに生産性の指標として扱う慣行を指す言葉です。
フィンテック企業 Ramp の試算によると、一般的な企業の AI 利用コストは 2025 年 1 月と比べて 13 倍に膨らんでいます。Uber は 2026 年 6 月、一部 AI ツールの利用上限を月 1,500 ドル(約 22 万円)に設定しました。同社 CTO は以前、年間の AI 予算をわずか 4 ヶ月で使い切ってしまっていたことを認めています。Amazon も 2026 年 5 月下旬、社員を AI の使用量でランク付けする社内の仕組みを廃止し、「成果につながらない AI 利用はやめるように」と社内に通達しました。
コスト削減を優先して、AI サービスの乗り換えに踏み切る企業も出てきています。AI スタートアップ Lindy の CEO、フロー・クリベロ氏は 2026 年 6 月初旬、Anthropic の Claude から中国の DeepSeek に全面的に切り替えたと明かしました。処理コストは約 90% 削減され、数ヶ月以内に数百万ドル規模の節約になる見込みだといいます。「会社を存続させるための判断だった」と同氏は語っています。実際、Vercel の集計データでも DeepSeek の利用シェアは 2026 年 5 月の 1 ヶ月間で 1% 未満から 17% へと急増しており、乗り換えの動きは広がっています。
AI ベンチマーク企業 Artificial Analysis が同じ作業を各社の最上位モデルで処理した場合のコストを比較したところ、Anthropic の Claude が 4,811 ドル(約 72 万円)、OpenAI が 3,357 ドル(約 50 万円)だったのに対し、DeepSeek は 1,071 ドル(約 16 万円)と、価格差は 3 〜 4 倍に達します。
今年に入って両社の売り上げは急上昇しましたが、現在コスト削減目的から乗り換えが加速してきている状況の中、OpenAI と Anthropic はそれぞれ 2026 年 6 月初旬に機密扱いで IPO を申請しました。Anthropic の評価額は最大 9,500 億ドル(約 142 兆円)、OpenAI は 8,500 億ドル(約 127 兆円)とされています。投資銀行 D.A. Davidson のアナリスト、ギル・ルリア氏は「企業がコストを見直し始めれば、両社にとって近いうちに逆風になりかねない。それが今すぐ上場を急ぐ理由だ」と見ています。
AI への投資は増え続けている一方で、Bain & Company の調査では、AI の導入によるコスト削減効果が実際には 10% 以下にとどまっていると答えた企業が全体の 40% に上っており、費用対効果への疑問は根強く残っています。用途に応じて安価なモデルと高性能なモデルを使い分ける「モデルルーティング」の導入も進んでおり、AI 活用は量の拡大から質の最適化へと軸足を移しつつあります。
>参照:
*OpenAI and Anthropic face new AI reality as users shift from ‘tokenmaxxing’ to efficiency, CNBC
*China’s Zhipu is closing in on top U.S. AI models with Anthropic and OpenAI held back, CNBC
*The Price of Tokenmaxxing: Claude’s Explosive Growth and the Real Cost of Intelligence, Madrona
