UAE 副大統領兼副首相のシェイフ・マンスール閣下は、2026 年 7 月 28 日、裁判所業務に特化した AI プラットフォームの正式導入を発表しました。「世界初の完全統合型 AI 司法プラットフォーム」と位置付けられるこのシステムは、UAE の司法分野における大きな転換点となります。
これまで裁判所の担当者は、事件の記録確認・法令の参照・判例の検索・文書の作成といった作業をそれぞれ別々のツールで行っていました。新システムはこれらをひとつに束ね、一連の業務を同一の画面上でこなせるようにします。また、音声認識技術「 Bayan 」を組み合わせることで、法廷での発言をリアルタイムで文字に起こし、複数言語への翻訳や調書の作成まで数分以内に完了できるようになります。
気になる「 AI が判決を下すのか」という点については、明確に否定されています。判事が最終的な判断を行う原則は変わらず、 AI はあくまで情報収集や文書作成の補助を担うにとどまります。出力された内容はすべて人間が確認・承認する手順が義務付けられており、司法の独立性は維持される設計です。
導入は段階的に進められます。まず 2026 年 9 月に第一フェーズが始まり、その後 18 ヶ月をかけて全裁判所業務へと展開される予定です。推進主体はアブダビ司法局( ADJD )と政府能力強化省( DGE )で、 UAE が掲げる 2031 年 AI 戦略の重点施策として位置付けられています。
この動きは、欧米との対比で見るとより鮮明です。英国では 2025 年 10 月に司法向け AI 指針が改訂されましたが、その内容は AI のバイアスやハルシネーション(誤情報の生成)に対する注意喚起にとどまっており、実際の導入を縛る法的拘束力のある規制はまだ存在しません。つまり英国は今後「どう使うべきか」の議論をしている段階であり、 UAE はすでに「どう展開するか」の実行フェーズに入っています。司法への AI 活用において、両国の間には議論と実装という明確な段階の差があります。
すでに UAE の司法省関連システムは 2026 年 4 月時点で 12 万 5,000 件以上の手続きをデジタル処理し、 7 万 7,000 人以上が利用しています。今回の統合プラットフォームはこの実績をさらに押し広げるものとなりそうです。
