Nvidia は 2026 年 8 月 10 日、AI チップを新たな資産クラスとして位置付ける取り組みを発表しました。Apollo Global Management、Blackstone、BlackRock、Brookfield Asset Management、Goldman Sachs、KKR の 6 社と覚書を結び、5,000 億ドル(約 75 兆円)規模の融資プラットフォームを構築する計画です。発表当日は 7 社の幹部全員が CNBC の合同インタビューに顔をそろえるという、異例の演出も話題を集めました。
ジェンセン・ファン CEO は「GPU が収益を生み出す資産になったのは今回が初めてだ」と強調しました。これまでチップは購入後すぐに価値が下がるハードウェアとして扱われてきましたが、Nvidia はその見方を変えようとしています。同氏は「計算資源は電力やインターネットと同じようなインフラだ」と述べており、GPU を不動産や有料道路のように長期間にわたって収益を生む資産として捉え直すべきだと訴えています。
融資の仕組みを簡単に説明すると、住宅ローンに近いイメージです。自宅を購入する際に全額を現金で用意する必要がないのと同様、企業が AI インフラを整備する際にも全額を一括で負担しなくて済む仕組みを作ろうという取り組みです。具体的には、機関投資家や保険会社といった大規模な資本の出し手が GPU やデータセンターの取得費用を立て替え、企業はその設備を使って得た収益から段階的に返済していきます。これにより、AI 開発を加速させたいスタートアップや新興企業は初期投資のハードルを下げられ、大企業も自社のバランスシートを傷めずに設備を拡充できるようになります。一方、金融機関にとっては、成長市場に安定した利回りで資本を投じる新たな投資先が生まれるという利点があります。BlackRock のラリー・フィンク CEO はこの取り組みを 1970 年代の住宅ローン担保証券の誕生になぞらえ、「金融工学の新たな幕開け」と評しました。
ただし、市場の受け止め方は冷ややかです。発表当日、Nvidia の株価は 2.9% 下落して 217.55 ドルで引けました。まず、今回の覚書はあくまで合意に向けた最初の第一歩のすぎず、5,000 億ドル(約 75 兆円)の投資が確定しているわけではありません。また、融資・調達・投資が一体化したこの構造が、実需を超えた人工的な需要を生み出すだけではないかという見方もあります。さらに最も根本的な問いは、急速に世代交代が進む AI チップを長期ローンの担保にできるのかという点です。
この点に対して Nvidia は一定の反論を示しています。同社によれば、2020 年に発売した A100 チップが現在も複数年の契約を獲得し続けており、実質的な有効寿命が 10 年近くに延びる可能性があるといいます。また、CUDA ソフトウェアを通じたソフトウェアの継続的なアップデートによって、ハードウェアそのものを刷新しなくても性能向上が見込め、今後も用途が広がり続けると主張しています。ただ、この主張が今後も通用し続けるかは未知数であり、将来的に技術が陳腐化した場合に誰が損失を被るのかという問いへの明確な答えもまだ出ていません。Nvidia は案件ごとに最大 25%の残存価値支援を行う方針を示しています。ただし、GPU の価値が想定以上に下落した場合、それを超える損失を借り手、Nvidia、融資側の誰がどの順番で負担するのかは、個別契約がまだ明らかになっておらず、現時点では不透明です。
Nvidia は今回の発表で、チップを売るだけの会社から、インフラを融資し、資本を配分する存在へと変わろうとしています。この枠組みが実際の契約へと発展するか、市場に根付くかどうか、引き続き注目してみていきたいと思います。
