欧州発の AI スタートアップ Mistral AI が、2026年10月6日に新しいフラッグシップモデル「Mistral Large 4(ML4)」を発表しました。前世代の Mistral Large 3 が2025年12月にリリースされてから約10ヶ月ぶりの新モデルとなります。社内では「Le Chonk」と呼ばれているこのモデルは、現在プレビュー版として公開されており、10月27日に正式リリースが予定されています。
モデルの特徴として、まず規模の大きさが挙げられます。パラメータの総数は約 1.05 兆と大規模ですが、実際の処理に使われるのは 490 億パラメータに絞られており、効率的に動く設計(MoE:Mixture of Experts)になっています。テキストだけでなく画像の入力にも対応しており、一度に処理できる文章量(コンテキストウィンドウ)は 100 万トークンと非常に大きく設定されています。学習には 4,000 基の最新 GPU が使用され、Mistral 自社の欧州データセンターで約 2 ヶ月かけて構築されました。160 以上の言語に対応しており、EU 全加盟国の公用語をカバーしています。
また、10月27日にはモデルの内部データ(ウェイト)が一般公開される予定で、オープンウェイトモデルとして自社サーバーへのダウンロードや独自の環境での運用が可能になります。ただし、コードや学習データが完全に公開される「完全オープンソース」とは異なり、ウェイトの公開にとどまる点には注意が必要です。
性能については、サイバーセキュリティや金融・法律といったビジネス用途の評価で高いスコアを記録したと Mistral 社は発表しています。ただし、これらは同社が自ら公表した数値であり、現時点では第三者機関による独立した検証は完了していません。中立的な評価機関 Artificial Analysis による総合評価では、中国勢の各種モデルに比べてスコアが低く出ていて、実力の全体像はウェイト公開後の検証を待つ必要があります。
価格面では、API の利用料金は入力 100 万トークンあたり $1.36(約 204 円)、出力 100 万トークンあたり $4.18(約 627 円)と、競合サービスより抑えた水準に設定されています。
今回の発表が注目を集める背景には、AI をめぐる地政学的な緊張があります。中国の DeepSeek や Kimi といったモデルは、高い性能と低価格のオープンウェイトモデルとして世界的に普及しつつありますが、データの取り扱いや安全保障上のリスクを懸念する企業や政府機関にとっては採用しにくい選択肢でもあります。そうした状況のなかで、Mistral Large 4 は欧州法規に準拠した環境で運用できる、数少ない西欧発の有力モデルとして存在感を高めています。米国では Meta の Llama シリーズが同様のポジションを担っていますが、欧州勢としては Mistral がほぼ唯一の対抗馬です。
CEO の Arthur Mensch はアブダビの発表イベントで「欧州が AI 競争で太刀打ちできないという見方は間違いだ」と言い切り、欧州からの反撃を宣言しました。財務面でも勢いは続いており、今年 9 月には 33 億ドル(約 4,950 億円)の資金調達を完了。欧州のテクノロジー企業による民間調達としては過去最大規模とされています。Airbus や HSBC を含む 125 社以上の大企業がすでに同社モデルを業務に活用しており、企業での導入実績も着実に広がっています。ただ一点、欧州産を強調しながらも学習に使った GPU は米国製という事実は残っており、「真の AI 主権」という観点では課題が残ると見る向きもあります。
