McKinsey が警鐘、 AI 投資の 8 割が失敗している理由とは

投稿者:

世界的コンサルティング会社の McKinsey & Company が発表したレポートは、企業の AI 活用に関する残念な現状を明らかにしました。多くの企業が AI に投資しているにも関わらず、その 8 割以上が期待したビジネス成果を得られていないのです。

同社の調査によると、 71% 以上の企業が何らかの形で生成 AI を業務に取り入れているものの、実際に収益向上やコスト削減といった明確な成果を報告できている企業は 2 割未満に留まっています。この現象は「 GenAI Paradox(生成AI のパラドックス)」と呼ばれ、 AI ブームの陰に隠れた深刻な問題となっています。

なぜこのような状況が生まれているのでしょうか。 McKinsey は主な原因として、企業が AI を既存の業務プロセスに「後付け」で導入していることを挙げています。多くの企業は ChatGPT のようなチャットボットや Microsoft Copilot のような業務支援ツールを導入していますが、これらは業務の一部を効率化するだけで、劇的な変化をもたらすには至っていません。

また、特定の業務に「垂直的に」深く組み込む専門的な AI システムについては、多くの企業が未だテスト段階から先に進めずにいます。技術的な難しさや組織の抵抗、データ整備の課題などが壁となっているのです。

この問題を解決するためには、AI 各社が開発している「エージェント型 AI 」をいち早く導入する必要があるとMcKinsey は考えています。これは従来の「人間がお願いしたことを手伝ってくれる AI 」から、「自分で考えて行動する AI 」への転換を意味します。

エージェント型 AI は、人間の指示を待つのではなく、目標に向かって自律的に計画を立て、複数のシステムを連携させながら業務を完結させます。例えば、顧客からの問い合わせに対して、単に回答するだけでなく、必要に応じて支払い処理や配送手配、関連部署への連絡まで一貫して行うことができるものとなります。

重要なのは、このエージェント型 AI を導入する際に、既存の業務プロセス自体を根本から見直すことです。従来の流れに AI を組み込むだけでは 5〜10% 程度の改善しか期待できませんが、 AI の特性を活かしてプロセス全体を再設計すれば、 80% の業務の自動化を実現することや、処理時間に関しても 60〜90% の短縮が可能となります。

実際に、ある大手銀行では信用調査業務にエージェント型 AI を導入し、 10 以上の異なるシステムからデータを自動収集して報告書の初稿を作成する仕組みを構築したとのこと。その結果、処理時間を 30% 短縮し、チーム全体の生産性を 60% 向上させることに成功しています。

McKinsey は、こうした変革を成功させるには CEO をはじめとする経営陣の強いリーダーシップが不可欠だと強調しています。 AI 導入を IT 部門任せにするのではなく、経営戦略の中核に位置づけ、組織全体で取り組む必要があります。

同社は「競合他社がエージェント型 AI を活用して 1 か月の仕事を 1 日で完了するような時代が来る」と警告し、今行動を起こさなければ大きく遅れを取ることになると述べています。 AI 投資を真の成果につなげるためには、小手先の改善ではなく、業務プロセスの根本的な変革が求められているのです。


筆者の視点:McKinseyが今回発表したレポート「Seizing the Agentic AI Advantage」については、同社のコンサルティングサービスの宣伝という側面が強いため、内容を割り引いて考える必要があります。つまり「エージェント型AIの導入が必要なので、当社にご相談ください」というメッセージが込められていますので・・。

しかし、このレポートが指摘するように、多くの企業がAIを導入し始めているにもかかわらず、業務効率の目に見える改善や、収益性の劇的な向上といった成果を聞くことは稀です。こうした「GenAI Paradox」によって、投資家の中に AI の費用対効果に関して懐疑的な見方をする人が増えてきているのも事実です。

また、同じくレポートが指摘するように、今後、エージェント型 AI の登場によってそうした状況が好転するという期待もあり、AI 開発企業もその開発に力を入れています。ただ、正直なところ、目立った成果はまだこれからというところです。