AI 開発の最前線に立つ Anthropic が 2026 年 10 月 16 日、自社の雇用変化をまとめた研究レポート「How Employment is Changing at Anthropic」を公開しました。社内のエコノミスト 4 名が、採用記録や社員アンケート、社員 17 名へのインタビューなど豊富な内部データをもとに執筆したもので、AI が職場をどう変えているかをデータで示した異例の報告書です。
最も目を引くのは、AI エージェントの稼働時間に関する数字です。2026 年 3 月、自律型・対話型エージェントの合計稼働時間が初めて社員の労働時間を上回りました。同年 8 月には、社員 1 人が 1 時間働く間にエージェントが 6 時間分の作業をこなす計算になっています。研究部門ではこの差がさらに開き、エージェントと人間の比率は 19 対 1 にのぼります。
採用の現場でも変化が鮮明です。技術部門におけるジュニア社員の比率は 2025 年初頭の 21% から 14% へ下がり、新規採用に占めるジュニアの割合は 27% から 9% に落ちました。2025 年 12 月以降は若手(ジュニア)向けのポジション自体が急減し、空きポジション全体のわずか 6% にとどまっています。非技術部門ではこうした変化はほとんど見られず、影響は技術職に集中しています。
採用基準も変わりつつあります。2026 年 4 月の調査では、技術・研究部門のマネージャーの過半数が「AI の普及で求めるスキルが変わった」と答えました。採用評価の場で AI ツールの活用能力に触れる割合は、技術職で約 5% から 15% へ、非技術職では 7% から 28% へと増えています。かつては専門知識や実務経験が重視されていた面接が、いまは「自分で判断して動ける人かどうか」を見る場に変わってきているようです。
生産性面では、エンジニア 1 人あたりのコード提出件数が半年前の 5 倍に増えました。ただし Anthropic 自身も、コード量の増加がそのまま品質やビジネス成果の向上につながるわけではないと釘を刺しています。コーディングツールの利用は技術職以外にも広がっており、非技術系社員の月間利用件数は 2025 年 8 月の 2 件から 2026 年 5 月には 90 件へと急増しました。
その一方で、エージェントを動かし続けるための新しい負担も生まれています。エージェントの指示書や出力を確認・管理する「メタワーク」と呼ばれる業務が全体に占める割合は、2025 年秋の 10% から 2026 年春には 22% へと倍増しました。エンジニアや研究者が抱えるエージェント出力を全部読もうとすると、週に 424 時間分に相当するとされており、人間の目が追いつかなくなっている実態が浮かび上がります。
レポートは最後に、ジュニアポジションが失われ続けると将来の熟練人材が育たなくなるリスクを指摘しています。Anthropic は「自社の変化は経済全体への先行指標になりうる」としながらも、自社の事例をそのまま社会全体に当てはめることには慎重な姿勢も示しており、今後の動向が注目されます。
