Anthropic は 2026 年 10 月 12 日、AI モデル「Claude」を狙った技術的な知財盗用、いわゆる「モデル蒸留攻撃」への新たな防御策を発表しました。これにより、攻撃者が不正に収集できるデータ量を従来比で最大 99% 抑制できたと報告しています。
モデル蒸留攻撃とは、競合他社などが API 経由で大量の質問を繰り返し送りつけ、その回答パターンを学習することで自社 AI モデルに能力をコピーする行為です。最先端 AI をゼロから開発するには数億ドル(約数百億円)規模の投資と数年の歳月が必要ですが、API の利用料さえ払えば、その成果をはるかに安く手に入れられてしまうという構造的な問題があります。
Anthropicは今回、中国拠点の 7 社による組織的な不正キャンペーンを特定・遮断したと明らかにしました。最大規模だったのは Alibaba によるもので、2026 年 5 月から 7 月の間に約 3,500 のアカウントを使い回しながら、1 億 5,100 万件以上のやり取りを実施していました。また Zhipu(Z.ai)は一歩踏み込んだ手口を使っていました。単に回答を収集するだけでなく、Claude が問題を解く際の「考え方のステップ」そのものを記録し、自社モデルの学習データとして活用していたのです。この手法でわずか 17 日間に 340 万件超ものデータを収集していたとされています。
防御の仕組みは 3 段階です。まず、2026 年 8 月 31 日以降に開設された API アカウントに対し、Claude の思考過程への不正アクセスを遮断しました。次に、データ抜き取りを目的とした不審なリクエストを自動で検知するシステムを導入しました。この検知システムでは、1,000 件に 1 件(0.1%)以下という低い誤検知率で正常な利用を妨げずに不審なリクエストを検知することができるとのことです。そして、繰り返し抽出を試みるアカウントには利用制限をかけ、悪質なケースは発見から 2 時間以内にアカウント停止する体制を整えました。
安全保障面でのリスクも指摘されています。不正にコピーされた AI モデルが、安全審査を経ずにサイバー攻撃や生物兵器の研究、あるいは外国の軍事・監視システムに転用されかねないという懸念です。実際、今回の調査では中国人民解放軍(PLA)との関係が疑われるユーザーによる監視映像の分析依頼が含まれていたことも報告されています。
ただし、今回発表された 90〜99% という削減効果は Anthropic 自身の測定によるもので、第三者機関による検証はまだ行われていません。また、攻撃側が新たな手口を開発すれば防御をかいくぐられる可能性もあり、いたちごっこが続く構図は否定できません。Anthropic 自身も「現在の防御が今後も有効であり続ける保証はない」と認めており、自社だけでの対応には限界があるとして、AI 業界、クラウド事業者、政策立案者が連携した取り組みの必要性を訴えています。
