【Editor’s Insight】スタートアップへの投資が加速:潮目の変化を感じる

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2024年に入って、AIスタートアップへの投資が加速しています。

特に注目すべきは、個々の企業に対する投資規模の大きさです。投資規模が大きくなる主な理由としては、スタートアップがAIモデルのトレーニングに必要なコンピューティングパワーを確保するため、となっています。理由が明確な分、投資を受ける側も出す側もお金を出すことを正当化しやすい環境が整っている、とも言えるかと思います。

現状では、新しいモデルを効率的にトレーニングするためには、Nvidiaのチップが不可欠です。そのため、スタートアップは高額なNvidiaのチップを直接購入するか、チップを使用できるクラウドサービスに多額の費用を支払う必要があります。Sequoia Capitalが3月に発表した調査によると、スタートアップ全体でNvidiaのチップ購入に投資した額は推計で500億ドル(約7.8兆円)に上りますが、その売上高は全社を合計しても30億ドル(約4700億円)程度にとどまっているとされています。

昨日、フランスのスタートアップ「H」が、立ち上げから数ヶ月しか経過していない段階で、Accel PartnersやAmazonなどから2億2000万ドル(約345億円)の資金調達を行ったというニュースを取り上げましたが、こうした実績のない企業への大型投資のニュースは、ここ1〜2ヶ月で増加傾向にあります。

こうしたアーリーステージの企業への投資は、それだけ投資意欲が旺盛であることを示していて、AI業界の発展を考える上では良い兆候です。ただ、2023年末から2024年3月頃までは、ある程度製品や販売実績を持つ企業への投資が中心でした。現在は事業アイデアと創業者のバックグラウンドのみで大型投資を受ける事例が増えてきていて、そういう意味で、潮目の変化が感じられます。

また、莫大な投資資金を確保する必要性から、企業評価額も跳ね上がっています。評価額が上がることはいいことのように思えますが、そうでない側面も大きいと言えます。評価額があまりに高くなりすぎると、IPOやM&AなどによるExitの選択肢が狭まってきてしまうからです。特にGoogleやMicrosoft,Nvidiaのような大企業は、独占禁止法の監視下にあり、大規模なM&Aが困難な状況にあります。投資しているVCや投資家は当然Exitによる利益を求めているでしょうから、予定している売上が伴わないと跳ね上がった評価額を正当化することが難しくなり、将来的に問題が起きてくるでしょう。

こうした状況は、1994年から始まったドットコムバブルを彷彿とさせます。当時は、売上のないスタートアップに投資資金が大量に流入し、2000年にバブルが崩壊しました。筆者はその時代をリアルタイムで経験しており、当時カリフォルニアにも定期的に足を運んでいましたが、その経験からしても、現在の状況は95年から96年頃に似ていると感じています。

当時の状況から考えると、今後、投資はさらに加速し、最終的には成功の道筋が全く見えないサービスにまで資金が流れ込むことが予想されます。その後、そうした狂騒は一旦収束し、本物の企業だけが生き残るでしょう。バブル崩壊後には、企業評価額が下がり、M&Aが進みやすい環境が整うとも言えるかもしれません。

ただし、狂騒が収まるまでにはまだ数年かかると考えます。VCファンドの運用期間は通常10年くらいと長いですし、1つ当たれば他の失敗をそれで取り戻せる、とも言えるからです。

現状投資機会を求めて世の中に溢れているマネーの量はコロナ禍を経て膨れ上がっています。そうした状況から考えると「AI革命」に投資される資金はまだまだ尽きないでしょう。今後どのように事態が推移していくのか、AI技術の進展と合わせて引き続き興味深く見守っていきたいと思います。