OpenAI は 2025 年 6 月 11 日、最新の推論型 AI モデル「 o3-pro 」をリリースし、同時に既存の o3 モデルの API 利用価格を 80% 引き下げると発表しました。この大胆な戦略により、Google や Anthropic などの競合他社に対する価格・性能両面での競争が一層激化しています。
o3-pro は OpenAI がこれまでに開発した中で最も高度な推論モデルです。従来の o3 や o1-pro モデルよりも「深く考える」ように設計されており、特に数学・科学・プログラミングなど正確性が重視される分野で優れた性能を発揮します。実際のベンチマークでは、数学競技 AIME 2024 で 93% の正答率を記録し、Google の Gemini 2.5 Pro を上回りました。また、博士レベルの科学知識を問う GPQA Diamond でも 84% を達成し、Anthropic の Claude 4 Opus を凌駕しています。
技術面では、o3-pro は ChatGPT の全ツールを統合して利用できることが大きな特徴です。ウェブ検索、Python によるファイル解析、画像入力への推論などを組み合わせて複雑な課題に対応でき、より詳細で実用的な回答が可能になっています。ただし、高い精度を優先するため処理時間は長くなっており、信頼性が求められる用途に適したモデルとなっています。
価格面では大幅な変更がありました。標準の o3 モデルは、入力トークン 100 万あたり 10 ドル(約 1450 円)から 2 ドル(約 290 円)へ、出力トークン 100 万あたり 40 ドル(約 5800 円)から 8 ドル(約 1160 円)へと 80% の大胆な値下げが実施されました。これにより、これまで高価格で敬遠されがちだった o3 が、開発者や研究者にとって手頃な選択肢となりました。
一方、o3-pro の価格は入力トークン 100 万あたり 20 ドル(約 2900 円)、出力トークン 100 万あたり 80 ドル(約 1 万 1600 円)に設定されており、高性能に見合った価格帯となっています。
競合と比較すると、Google の Gemini 2.5 Pro(入力 1.25 ~ 2.5 ドル、出力 10 ~ 15 ドル)は格安ですが、Anthropic の Claude 4 Opus(入力 15 ドル、出力 75 ドル)よりは o3-pro がやや高価格となっています。ただし、o3 の値下げ後価格(入力 2 ドル、出力 8 ドル)は両社を下回る価格競争力を実現しています。
この価格戦略の背景には、AI 市場でのシェア拡大を狙う OpenAI の明確な意図があります。これまで o3 は性能は高いものの価格がネックとなって普及が遅れていましたが、今回の値下げにより中小企業やスタートアップにとってもアクセスしやすくなりました。OpenAI は「推論スタックの最適化により同じモデルを低コストで提供している」と説明しており、性能低下は一切ないとしています。
o3-pro モデルは ChatGPT Pro や Team ユーザーは即日利用可能で、Enterprise や Edu ユーザーにも順次開放される予定です。ただし、現時点では一時チャットや画像生成などの一部機能はサポートされていません。
OpenAI CEO のサム・アルトマン氏は、今夏にはさらに大規模な「オープンウェイト」モデルのリリースも予告しており、AI 業界の競争は今後さらに激化する見通しです。今回の o3-pro リリースと価格戦略は、OpenAI が市場リーダーとしての地位を強固にする一手となりそうです。