イーロン・マスク氏の新戦略:Grok 5 と月面データセンター

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イーロン・マスク氏率いる xAI と SpaceX の合併は、テクノロジー業界の勢力図に影響を与える動きとなっています。2026 年 2 月 2 日 に正式発表されたこの統合により、企業価値は約 1 兆 2,500 億ドル(約 193 兆 7,750 億円)に達し、AI 開発と宇宙輸送能力を兼ね備えた巨大事業体が誕生しました。これを受けて 2026 年 2 月 10 日 に開催された初の全社集会では、両社のリソースを融合させ、物理的な輸送とデジタルな知能の境界を取り払うというビジョンが示されました。マスク氏はこの再編を通じて、テスラを含む自身の事業群における開発体制を根本から再構築しようとしています。

集会では、組織を専門性の高い 4 つのチームに分割する方針が明らかにされました。チャットボット基盤と音声対話を担う「Grok Main & Voice」、バックエンド開発を支援する「Coding」、画像・動画生成に特化する「Imagine」、そして企業の事務作業自動化を目指す「Macrohard」です。この組織改編に伴い、創業メンバー 12 名のうち 6 名が会社を去ることとなりましたが、これは組織の拡大フェーズにおける人材配置の最適化であり、意思決定の迅速さを維持するために必要な措置であると説明されています。

開発のスピードも加速しています。2026 年 2 月 17 日 には「Grok 4.2」のパブリックベータ版がリリースされました。このモデルは内部で複数の AI エージェントが議論を行って回答を生成する仕組みを採用しており、事実に基づかない情報を出力するハルシネーションを従来比で 65 % 削減することに成功しています。さらに 2026 年第 1 四半期 には、パラメータ数が 6 兆に達する次世代モデル「Grok 5」の投入も予定されており、マスク氏は汎用人工知能(AGI)への到達確率を 10 % 以上と見積もっています。

こうした高度な AI モデルを支える基盤として、世界最大級の計算インフラの整備が進められています。テネシー州メンフィスのスーパーコンピューター「Colossus」は拡張され、NVIDIA 製の最新 GPU である GB200 および GB300 を 33 万基以上搭載する巨大施設となりました。この施設だけで 1 ギガワット(GW)以上の電力を消費しますが、xAI の月間約 10 億ドル(約 1,550 億円)に及ぶ巨額のキャッシュ燃焼は、SpaceX の事業収益によって支えられる構造です。加えて、史上最大規模となる IPO の準備も報じられており、財務基盤の強化に向けた動きも活発化しています。

全社集会で特に注目を集めたのは、SpaceX の輸送能力を前提とした宇宙規模での計算資源確保の構想です。マスク氏は、月面で製造した AI 衛星を電磁カタパルトで射出する「月面マスドライバー」や、太陽光を直接エネルギー源とする「軌道上データセンター」といった計画を披露しました。これらは、天文学者ニコライ・カルダシェフが提唱した「文明の発展度をエネルギー利用量で測る指標(カルダシェフ・スケール)」の向上を意図したものです。現在の地球文明は惑星エネルギーすら完全には制御できていない段階ですが、宇宙空間で太陽光を直接利用することは、恒星エネルギーを活用する「タイプ 2」文明への足がかりとなります。地球上の資源制約から解放された計算能力を確保することは、xAI が単なるソフトウェア企業から宇宙を舞台にしたインフラ企業へと変貌を遂げるための必須条件であり、その規模は既存のテクノロジー大手にとって無視できない脅威となるでしょう。