米国の税制改革が、テック業界の AI 投資を一段と加速させています。2025 年 7 月 4 日に成立した「 One Big Beautiful Bill Act 」( OBBBA )により、設備投資費用の 100% 即時償却制度が恒久的に復活しました。この制度変更が、2026 年のビッグテック各社による史上最大規模の設備投資ラッシュの大きな原動力となっています。
100% 即時償却とは何か
通常、企業がサーバーやデータセンターなどの設備を購入した場合、その費用は数年から 10 年程度にわたって少しずつ経費として計上していきます(減価償却)。しかし、100% 即時償却が認められると、購入した年に全額を一括で経費として計上できるようになります。
これがなぜ大きいかというと、企業は設備投資をした年の法人税を大幅に減らすことができ、その分のキャッシュが手元に残ります。残ったキャッシュをすぐに次の設備投資に回せるため、「投資→節税→再投資」というサイクルが高速で回るようになるわけです。
この制度は元々、第一次トランプ政権時代の 2018 年に「 Tax Cuts and Jobs Act 」( TCJA )で導入されましたが、初年度に即時償却できる割合が段階的に縮小される設計になっており、2025 年は取得価額の 40% 、2026 年は 20% しか初年度に経費化できず、2027 年には制度自体が廃止される予定でした。それが今回の OBBBA により、2025 年 1 月 19 日以降に取得・使用開始した資産について、取得価額の 100% を初年度に即時償却できる制度が恒久的に復活しました。
AI 投資への影響 ── なぜこれほど効くのか
AI ブームにおいて最もコストがかかるのは、データセンターの建設と、GPU サーバーをはじめとする AI 専用ハードウェアの調達です。これらはまさに即時償却の対象資産に該当します。
従来であれば、数百億ドル規模の設備投資は、数年にわたって費用を計上するため、初年度の税負担が重く、投資回収にも時間がかかりました。しかし 100% 即時償却の下では、投資した年に全額を経費化できるため、実質的な投資コストが大幅に下がります。これにより、企業は大胆な投資判断を下しやすくなっています。
ビッグテック各社の 2026 年設備投資計画
税制優遇を追い風に、各社の 2026 年設備投資額は過去最大規模に膨らんでいます。直近の決算発表から明らかになってきたビッグテック各社の投資規模は、
Amazon が 2,000 億ドル(約 31 兆円)超を計画しており、2025 年の 1,318 億ドル(約 21 兆円)から 52% の増加となります。投資先は AI 、チップ、ロボティクス、低軌道衛星などに重点配分されています。
Google (アルファベット) は 1,750 億〜 1,850 億ドル(約 27 兆〜 29 兆円)を見込んでおり、前年の 914 億ドル(約 14 兆円)から約 2 倍の水準です。市場予想の 1,195 億ドル(約 18 兆円)を大きく上回り、アナリストの間でもその規模感に注目が集まっています。
Microsoft は直近四半期ベースから推計して約 1,500 億ドル(約 23 兆円)規模、Meta は 1,150 億〜 1,350 億ドル(約 18 兆〜 21 兆円)と、いずれも前年から大幅な増額です。
これら 4 社の合計だけで約 6,100 億ドル(約 95 兆円)に達する見込みであり、日本の国家予算にも匹敵する規模です。
2025 年より 2026 年に「効く」理由
この税制は 2025 年の投資にも適用されますが、2026 年の投資判断により強く作用しています。
まず、変化の幅が大きいことが挙げられます。上述の通り OBBBA 成立前のルールでは、2025 年の償却率は 40% 、2026 年は 20% に引き下げられる予定でした。それが 100% に戻ったわけですから、2026 年の方が旧ルールとの差( 80 ポイント)が大きく、税制メリットをより強く実感できます。
次に、予測可能性の向上です。OBBBA が成立したのは 2025 年 7 月 4 日であったため、多くの企業は 2025 年前半の予算を旧ルール( 40% )前提で組んでいました。年の後半になってから急遽投資を拡大したケースも多く、準備不足でフル活用しきれなかった面もあります。一方、2026 年は年初から 100% 即時償却が確定した前提で予算を組むことができるため、各社とも大胆な設備投資計画を策定しています。
Meta のザッカーバーグ CEO は、巨額投資が期待通りの成果を上げなければ「単純に方向転換する」と述べており、即時償却制度が投資リスクの許容度を高めていることを示唆しています。
米国全体への波及効果
米国シンクタンク TAX FOUNDATION の分析によると、2025 年から 2035 年の 10 年間で、製造業は 4,226 億ドル(約 66 兆円)、情報産業は 1,360 億ドル(約 21 兆円)の法人税負担軽減が見込まれています。これらは AI インフラ構築に直接関連する業種であり、テック企業だけでなく、半導体製造やクラウドサービスを提供する幅広い企業が恩恵を受けることになります。
また、OpenAI 、ソフトバンクグループ、オラクルは米国各地のデータセンター整備に 5,000 億ドル(約 78 兆円)を投資する計画を発表しており、こうした大規模プロジェクトの意思決定にも、この税制改革が後押しとなっています。
懸念される副作用
一方で、リスクも指摘されています。GPU の技術進化は非常に速く、購入した機器が数年で陳腐化する可能性があります。即時償却による節税効果が投資判断を過度に楽観的にさせ、結果として需要に見合わない過剰投資を招くリスクがあるとの見方もあります。
また、データセンターの急増により、米国内の電力需給がひっ迫し、不動産価格にも歪みが出始めています。さらに、税収減が国全体の財政に与える長期的な影響も議論の対象となっています。
まとめ
米国のビッグテック各社が過去最大規模の設備投資を計画している背景には、AI 技術への期待だけでなく、この 100% 即時償却制度の恒久化という強力な「税制の燃料」が存在しています。2026 年はまさに「税制ブースト元年」ともいえる年であり、各社の AI インフラ投資がどこまで拡大するのか、そしてそれが実際のビジネス成果にどうつながっていくのか、注視していく必要があります。
過剰投資のリスクや電力問題といった副作用を抱えながらも、この税制改革が米国の AI 競争力を支える柱の一つであることは間違いありません。日本をはじめ各国にとっても、自国の AI 産業振興策を考えるうえで、米国のこうした税制面でのアプローチは参考になる事例といえるでしょう。
