テスラが 2025 年 6 月 22 日、米国テキサス州オースティンで待望のロボタクシーサービスの試験運用を開始しました。イーロン・マスク CEO が 10 年以上前から予告していた完全自動運転車の商用化に向けた重要な一歩として、市場からは大きな期待が寄せられています。
現在のサービスは Tesla Model Y を使用し、約 10〜20 台の車両が限定エリア内で運行されています。料金は 1 回の乗車につき 4.20 ドル(約 610 円)という設定で、事前に招待されたテスラユーザーや株主が専用アプリで利用できる仕組みです。運行時間は毎日 6:00〜24:00 で、悪天候時は運行が制限されます。
ただし、現段階では完全な無人運転ではありません。助手席にはテスラ社員が「安全モニター」として同乗し、必要に応じて車両を停止できる体制を取っています。また、遠隔操作によるサポート体制も準備されており、限定的なパイロット運用という段階です。
このロボタクシー開始の発表を受けて、テスラ株は約 10% 上昇するなど、投資家からは前向きな評価を得ました。しかし、実際のサービス内容を見ると、まだ多くの制約があるのが現実です。
競合他社との比較では、 Google 系の Waymo が既に週 25 万件以上の完全自動運転ライドを実現し、全米複数都市で展開中です。 Morgan Stanley の分析によると、 Waymo は 2025 年末までに 5 都市、 2030 年には 30 都市・約 18,000 台の規模になると予測されています。運用実績、都市展開、安全性の面で、テスラは Waymo に大きく遅れているのが実情です。
Amazon 傘下の Zoox も静かに台頭しており、 2030 年には 16 都市・約 8,400 台の自動運転フリートが展開される見込みです。豊富な資金力を背景に、中長期的に有力な競合となる可能性があります。
テスラの強みは、既に数百万台の車両が稼働していることです。理論上は「ソフトウェアのスイッチを入れるだけ」で大規模展開が可能とされています。しかし、実際には FSD ( Full Self Driving )がまだ不完全で、特に安全記録と規制当局からの信頼性に課題があります。
今回のオースティンでの試験運用は、テキサス州で 9 月 1 日から自動運転車の運行に州の許可が必要となる新法施行直前のタイミングで実施されました。規制強化の動きもある中、テスラにとって安全性への社会的信頼の確立が重要な課題となっています。
今回のテスラ株の上昇は、現実の成果よりも将来への期待が牽引している側面が強いとの指摘もあります。 Waymo が数年で 1,000 万回以上の完全自動ライドを達成した実績を踏まえ、「テスラも同様の軌道に乗る」という期待が背景にあります。
しかし、規模の経済を活かすには、まずはソフトウェアが安定して動くことが前提です。現段階では限定エリア、安全モニター同乗、遠隔サポート付きという制約が多く、真の完全自動運転にはまだ時間がかかりそうです。テスラのロボタクシーが本格的な競争力を持つには、技術の進歩と規制対応の両面でさらなる取り組みが必要となるでしょう。