【Editor’s Insight】TSMC 台湾の半導体工場が握るアメリカの AI 優位性 — 最先端製造は今後も台湾にとどまる方針

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よく知られていることですが、アメリカの AI 競争における優位性は、台湾にある TSMC(台湾積体電路製造)の工場が支えています。

現在の最先端 AI チップの 90%以上を製造しているのは台湾に位置する TSMC の工場であり、NVIDIA にせよ Broadcomにせよ、Google などのメガテック企業にせよ、設計はともかく、実際の製造は台湾の工場が一手に担っています。

アメリカ合衆国における台北経済文化代表処(TECRO)の代表 Alexander Yui 氏は Wall Street Journal の Gavin Bade 記者のインタビューで、TSMC 社の製造戦略について明確に答えています。「最先端のチップはまずは台湾で作る。そこで製造可能なことを検証できた後に、アメリカなどで製造する」という方針です。これは半導体製造における台湾の優位性を維持する戦略であり、いわゆる「シリコン・シールド(半導体による抑止力)」と呼ばれる概念にもつながっています。

現在、TSMC は台湾では 3nm の集積チップを製造していますが、アリゾナ工場では 4nm の製造にとどまっています。さらに台湾では 2025 年に 2nm プロセス技術による半導体の量産を開始する予定であるのに対し、アリゾナの第 2 工場で 2nm 技術の採用が始まるのは 2028 年の予定です。この技術格差が示すように、最先端技術は今後もまずは台湾で開発・製造され、その後アメリカなどに展開されるという基本方針が継続されています。

この状況がアメリカの安全保障政策にも影響を与えています。アメリカが台湾の防衛に関与する必要性の背景には、これらの半導体工場の戦略的重要性があります。トランプ前大統領は CHIPS 法(アメリカ国内の半導体産業育成支援策)を批判し、「アメリカ国内に製造だけでなく、技術そのものを取り戻すべきだ」と主張していますが、TSMC のような最先端技術を「アメリカ国内に持ち帰る」ことは容易ではありません。これは設備や資金だけの問題ではなく、技術・人材・文化的蓄積が台湾に集中しているためで、単に製造機械を持っていくだけでは物理的に。

さらに注目すべきは、「中国が台湾に侵攻した場合、TSMC の工場を破壊すべきか」という議論も出ていることです。この議論は 2021 年にアメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)の論文や、2022 年にハーバード大学の国際政治学者グレアム・アリソン氏らによって提起されました。また 2023 年には、エルブリッジ・コルビー氏が「中国が台湾を攻撃した場合、台湾と米国は TSMC が無傷のまま中国の手に渡ることを許してはならない」と述べています。コルビー氏は 2024 年 12 月にトランプ次期大統領から国防政策担当次官に指名されており、この発言が再び注目を集めています。

この議論に対して、TSMC のマーク・リース会長は CNN のインタビューで「戦争になったら TSMC の工場は”動かなく”なる。どのような形であっても、中国が単純に TSMC の設備をコントロールしても意味がない」と発言しています。これは、TSMCの工場が日米欧からの部品やソフトウェアなどの国際的なサプライチェーンに強く依存していることを指しており、戦争や侵攻によりこれらの供給が断たれれば、工場の稼働が困難になることを指摘しています。

台湾の対外投資の流れも変化しています。10 年前は中国本土への投資が 83%を占めていましたが、現在は 9%以下に減少し、代わりに米国への投資が 40%に増加しています。台湾は経済的にも安全保障的にもアメリカとの連携を強め、中国から距離を取る動きを明確にしています。

このように、アメリカの AI 競争力は台湾の半導体製造能力に大きく依存しており、この依存関係が両国の安全保障政策にも影響を与えています。最先端半導体技術の中心が当面は台湾にとどまる方針を台湾が明確にする中、アメリカと台湾の関係はしばらくはますます重要性を増していくことになります。