スイスの製薬大手 Roche は 2026 年 3 月 16 日、 NVIDIA 主催のテクノロジーカンファレンス「 GTC 2026 」で、大規模な AI 計算基盤「 AI ファクトリー」の展開を発表しました。新たに 2,176 基の最新 GPU を追加したことで総数は 3,500 基を超え、同社は製薬業界で最大規模の AI インフラを持つ企業となりました。このシステムは米国とヨーロッパの自社データセンターとクラウドを組み合わせて運用されており、新薬の開発から診断ソリューションの提供まで幅広く活用されています。
用途は研究開発・製造・診断・デジタルヘルスの 4 領域に及びます。新薬の研究では、 AI が膨大な分子データを学習・分析することで候補化合物の絞り込みを大幅に効率化しています。製造では工場の仮想モデル(デジタルツイン)を使って生産プロセスを事前に最適化しており、現在ノースカロライナ州で建設中の新工場にも同手法が採用されています。診断分野では AI が大量の医療画像を解析して微細な異常を検出し、デジタルヘルス分野では医療用途に適した安全な対話型 AI の開発に活用されています。
すでに数字として表れている成果もあります。傘下の Genentech では、対象となる低分子創薬プログラムの約 90% に AI が組み込まれています。ある腫瘍領域のプログラムでは分子設計のスピードが 25% 上がり、別のプログラムでは以前なら 2 年以上かかっていたバックアップ候補薬の特定がわずか 7 カ月で完了しました。
競合他社も動きを加速させています。米 Eli Lilly は独自の AI スーパーコンピューター「 LillyPod 」をすでに稼働させており、 NVIDIA との間で 5 年間・最大 10 億ドル(約 1,500 億円)規模の共同研究ラボ設立も発表済みです。業界全体では、 AI の本格活用によって研究開発コストを 30 〜 40% 削減し、開発期間を 1 〜 4 年短縮できるとの試算があり、一部部門での試験導入から会社全体での本格運用へ移行する動きが広がっています。
Roche の最高デジタル・テクノロジー責任者である Wafaa Mamilli 氏は「医療において時間は最も重要な変数であり、 1 日節約するごとに患者へ早く薬や診断が届く」と語っています。 AI を研究から製造・販売に至るすべての工程に組み込むことで、創薬のスピードそのものを変えようとする姿勢が鮮明です。
