Perplexity AI は、AI 検索結果で利用されたコンテンツに対してパブリッシャー(出版社)に収益を分配する新たなサブスクリプションプログラム「 Comet Plus 」を発表しました。この取り組みのために Perplexity は総額 4250 万ドル(約 62 億円)の資金を用意しています。
新しく発表された「 Comet Plus 」は月額 5 ドル(約 740 円)のサブスクリプションサービスで、その収益の 80% がパブリッシャーに分配され、Perplexity 側が残り 20% を受け取る仕組みです。収益分配は 3 つの方式で行われます。(1)ユーザーが Perplexity 経由で出版社サイトを直接閲覧した場合、(2)コンテンツが AI 検索の回答として引用された場合、そして(3)AI アシスタントがタスクの一環で出版社サイトを閲覧した場合、です。
この取り組みの背景には、Perplexity が抱えている深刻な問題があります。Perplexity は現在 The Wall Street Journal や The New York Times 、BBC といった主要メディアから、許可なくコンテンツを使用したとして著作権侵害の訴訟や批判を受けています。さらに Cloudflare からは、ウェブサイトの保護を回避する「ステルス・クローラー」を使用しているとの非難も出ており、Perplexity の倫理的なデータ収集に関する批判が続いています。
Perplexity の CEO である Aravind Srinivas 氏は「 AI はより良いインターネットを作り出しているが、パブリッシャーも報酬を受ける必要がある」と述べ、同社のパブリッシャーパートナーシップ責任者 Jessica Chan 氏は「従来のウェブトラフィックやクリックに依存する古いモデルから脱却し、AI 時代に適した新しい報酬体系を確立する」と説明しています。
現在、Time 、Los Angeles Times 、Fortune などの出版社がすでに参加しており、このプログラムは 2024 年 7 月に最初に導入された収益分配モデルの拡張版として位置づけられています。Apple News+ が収益の 50% をパブリッシャーに分配するのに対し、Perplexity は 80% という高い分配率を提示することで、パブリッシャーにとってより魅力的なモデルを目指しています。
ただし、業界の反応は懐疑的です。一部のアナリストは、これが本質的な解決策ではなく、批判を和らげるための戦略的動きに過ぎないと指摘しています。著作権侵害訴訟や倫理的なデータ収集の問題が、この収益分配プログラムによって解決されるかは不透明な状況です。
それでも、この取り組みは AI 時代における情報産業の新しいビジネスモデルとして注目を集めています。「ジャーナリズムが成功しない限り AI も成功しない」という同社の方針の下、今後さらなる出版社との パートナーシップ拡大が期待されており、AI 企業とメディア間の緊張関係に一石を投じる試みとして業界の動向が注目されます。
筆者の見解:パブリッシャーへの配慮は評価できるものの、今回のサービスを追加したことで、ユーザーにとってわかりにくいサービス設計になってしまった点が残念に感じます。
今回のサービス追加を受けて、ユーザーは、「無料ユーザー」「 Comet Plus ユーザー」「 Pro 」「 Max 」の 4 段階に分類され、それぞれでアクセスできる機能やコンテンツが異なります。無料ユーザーは、提携パブリッシャーの記事を利用した検索が制限されるため、検索内容の信頼性や正確性が下がり、事実上割を食う結果となりました。また、「 Comet Plus 」というネーミングも混乱を招きます。ネーミングからして Perplexity が提供している Comet ブラウザ専用のサービスかと思いきやそうではなく、既存の Pro ・ Max ユーザーには自動的に付与されるなど、サービス体系の理解が困難です。
パブリッシャーとの関係改善はもちろん重要ですが、無料ユーザーの検索精度が下がることや、ユーザー体験のわかりにくさは、まだ普及初期段階の Perplexity のサービスの今後の展開に悪影響を与える可能性があるかと思います。