OpenAI が米政府に ChatGPT Enterprise を「 1 機関 1 ドル」で提供

投稿者:

OpenAI は 2025 年 8 月 6 日、米国連邦政府の全執行機関に対し、ChatGPT Enterprise を今後 1 年間「 1 機関あたり 1 ドル(約 147 円)」というほぼ無償の価格で提供する契約を発表しました。これは米国総務庁( GSA )とのパートナーシップを通じて実現され、200 万人以上の連邦職員が対象となります。

通常、ChatGPT Enterprise はユーザー 1 人あたり月額 60 ドル(約 8,820 円)で提供されており、1,000 人規模の機関であれば月額 6 万ドル(約 882 万円)のコストがかかります。今回の契約では、この高額なエンタープライズサービスを事実上無料で政府機関に提供することになり、AI 業界でも異例の価格設定として注目を集めています。

提供される ChatGPT Enterprise には、最新の AI モデル( GPT-4o など)、強化されたセキュリティ機能、業務用管理コンソールが含まれます。さらに最初の 60 日間は、Deep Research や Advanced Voice Mode などの高度な機能への無制限アクセスも提供されます。

セキュリティ面では、連邦政府の機密性要件を満たすため、業務データが AI モデルの学習や改善に利用されることはなく、Microsoft Azure の政府向けクラウド上で運用されます。GSA は ChatGPT Enterprise に対して「使用許可」を正式に発行し、セキュリティとコンプライアンスの基準を満たしていることを確認しています。

この取り組みは、トランプ政権の「 AI アクションプラン」の一環として位置づけられ、官僚的な書類作業や日常業務の効率化を通じて、公務員が国民サービスの提供により集中できる環境を整備することを目的としています。実際、ペンシルベニア州やノースカロライナ州での試験導入では、職員が 1 日あたり約 95 分の時間短縮を実現したという実績が報告されています。

ただし、この「 1 ドル提供」には戦略的な側面も指摘されています。競合他社の Anthropic や Google も GSA の承認済み AI ベンダーリストに含まれている中、OpenAI は政府市場での優位性確保を狙った囲い込み戦略との見方もあります。また、1 年後の契約更新時には価格が大幅に上昇する可能性も懸念されています。

技術的な課題として、最近の研究では ChatGPT の新しいモデルでハルシネーション(誤った情報の生成)が以前より増加しているとの報告もあり、公共部門での信頼性確保が重要な課題となっています。個人情報保護の専門家やサイバーセキュリティ専門家からは、AI の集中利用による監視リスクやデータ漏洩の可能性を懸念する声も上がっています。

OpenAI の CEO サム・アルトマン氏は「AI を国のために働く人々の手に渡すことが、AI をすべての人に役立てる最良の方法」と述べ、公共サービスへの貢献を強調しています。この契約は、米国政府の AI 採用を飛躍的に加速させる大規模な企業戦略であり、他の政府や自治体での AI 導入のモデルケースとしても注目されています。