OpenAI と Anthropic がそれぞれ ChatGPT と Claude の利用実態調査をほぼ同日に発表し、 AI の普及が地理的・経済的格差を拡大していることが明らかになりました。両社のデータは、個人利用とビジネス利用の明確な分岐を示すとともに、世界規模での「 AI 分断」が進行していることを浮き彫りにしています。
個人利用とビジネス利用の対照的な傾向
ChatGPT では個人利用が急拡大しており、2024 年 6 月の 53% から 2025 年には 73% まで上昇しました。利用者の 49% が「協働型」として AI をアドバイザーとして活用し、情報検索や執筆・教育支援が主な用途となっています。一方、 Claude では企業 API 利用の 77% が完全な業務自動化用途であり、特にコーディングやプログラミングタスクに特化した利用が際立っています。
この分化により、個人ユーザーは AI を「思考パートナー」として、企業は「自動化ツール」として位置づける傾向が明確になっています。 Anthropic のデータでは、米国従業員の AI 利用率が 2023 年の 20% から 40% に倍増し、その採用速度はインターネット( 5 年)や PC ( 20 年)を大幅に上回る歴史上最速クラスの普及を記録しています。
地理的格差が拡大
最も深刻な課題として浮上したのが、地理的・経済的な利用格差です。 Anthropic の Economic Index では、 Claude の利用が富裕国に極端に集中していることが判明しました。シンガポールやイスラエルなどの技術先進国が期待値を大幅に上回る一方、インドやナイジェリアは期待値の 0.2 ~ 0.3 倍程度の利用率にとどまっています。
OpenAI のデータでも、富裕国では教育支援や執筆など多様な用途での利用が見られるものの、新興国ではコーディング中心の限定的な利用が目立ちます。この格差は単なる技術アクセスの問題を超え、 AI の恩恵が特定の地域・階層に集中するリスクを示しています。両社は「 AI アクセスを基本的人権として扱うべき」との見解を示し、政策介入の必要性を強調しています。
デモグラフィックの変化
利用者層にも注目すべき変化が起きています。 ChatGPT では当初男性中心だった利用者構成が 2025 年 6 月までに逆転し、女性ユーザーがわずかに上回る状況となりました。年齢層では 26 歳未満が全体の 46% を占めていますが、年齢が高いほど業務・ビジネス利用の比率が上昇する傾向があります。
ただし、 Anthropic のデータでは利用がスキルや教育水準の高い層に偏重しており、女性や低所得層の利用率が相対的に低い状況も確認されています。これは AI が「スキル格差」を助長する可能性を示唆しており、包括的なアクセス確保が重要な課題となっています。
AI の普及速度は過去のどの技術革新よりも速く、その影響は既に日常生活や職場に深く浸透しています。しかし今回のデータは、その恩恵が均等に分配されておらず、地理的・経済的・教育的な格差を拡大するリスクがあることを明確に示しています。両社とも、実際の利用データと世論調査の間に大きなギャップがあると指摘しており、 AI の社会的受容と信頼構築にも課題が残されています。