NVIDIA 、中国市場向けに低価格 Blackwell AI チップを投入へ

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米 Reuters が報じたところによると、米国の半導体大手 NVIDIA が、米中間の貿易摩擦と輸出規制の強化が続く中、中国市場での足場を維持するため、最新の Blackwell アーキテクチャをベースとした安価な AI GPU を投入する計画であると報じられています。

同社の新しい AI チップは中国市場専用に設計されており、価格は 6,500 ドルから 8,000 ドル(約 94 万円から 116 万円)の範囲になると予想されています。これは、以前中国市場向けに提供されていた H20 モデルの価格帯( 10,000 ドルから 12,000 ドル、約 145 万円から 174 万円)と比較して大幅に安価であり、約 30% から 50% の価格低下に相当します。

この新チップは米国の輸出規制に準拠するため、いくつかの技術的な変更が加えられています。ベースとなる GPU は、 NVIDIA のサーバークラス GPU である「 RTX Pro 6000D 」が採用される見込みです。メモリには、高度な高帯域幅メモリ( HBM )ではなく、標準的な GDDR7 メモリが使用され、メモリ帯域幅は H20 の 4TB/s から約 1.7TB/s に抑えられます。また、 TSMC の先進的な CoWoS ( Chip-on-Wafer-on-Substrate )パッケージング技術は採用されません。

NVIDIA がこのような中国市場向けの特別仕様チップを開発する背景には、複数の要因があります。中国は NVIDIA にとって重要な市場であり、昨年度の同社総収益の 13% を占めています。しかし、輸出規制の影響で、 NVIDIA の中国における AI チップ市場シェアは、 2022 年以前の 95% から現在は約 50% まで低下しています。さらに、 Huawei の Ascend 910B など、中国国内メーカーの AI チップが性能を向上させ、 NVIDIA にとっての競争圧力が高まっています。

この新しい中国市場向け AI チップの量産は、早ければ 2025 年 6 月にも開始される見込みです。 NVIDIA の広報担当者は、同社が中国市場向けの「限られた」選択肢を現在も評価中であるとし、「新しい製品設計を最終決定し、米国政府から(輸出の)承認を得るまでは、中国の 500 億ドル(約 7 兆 2,500 億円)規模のデータセンター市場へのアクセスが事実上禁止されている」とコメントしています。

NVIDIA は、技術的な妥協とコスト管理を通じて、米国の輸出規制を遵守しつつ、巨大な中国市場でのプレゼンスを維持し、商業的利益を確保することを目指しています。 CEO のジェンスン・フアン氏は、新しい Blackwell アーキテクチャの柔軟性が、コンプライアンスと商業的利益の両立を可能にするソリューションとなると述べています。一方で、性能が抑えられた新チップは、高度な AI アプリケーションには制約が生じる可能性もあり、今後の市場動向が注目されます。


筆者の視点:NVIDIA が新しく投入しようとしているチップは、中国国内産のファーウェイの Ascend 910B と比べると性能面では劣るものになりそうです。NVIDIAはそれを、低価格と、中国の研究者も使い慣れている NVIDIA の開発用ソフトウェア( CUDA )を含めたエコシステム、というところでカバーしようとしています。ただ、それも限界があるので、このままいくとここ 2 〜 3 年で中国市場の AI チップは中国国内の企業に取って代わられそうです。