ノースカロライナ州立大学の研究チームが、従来の 10 倍以上の速度でデータを収集できる AI 搭載の自律研究室を開発しました。この技術により、新素材の発見が大幅にスピードアップし、研究コストと環境負荷の削減も期待されています。
これまでの自動化された研究室では、実験を一つ終えてから次の実験を始めるという方式でした。実験の合間にはシステムの準備時間が必要で、どうしても効率に限界がありました。新しく開発された技術では、実験を止めることなく連続的に行い、化学物質の混ぜ合わせ方を刻々と変化させながらデータを取り続けます。
その結果、これまで一つの実験から 1 つのデータしか得られなかったのが、新システムでは 0.5 秒ごとにデータを収集し、一回の実験で 20 以上のデータポイントを得ることができるようになりました。 AI が大量の高品質データを瞬時に解析し、次に試すべき実験条件を的確に判断するため、最適な素材を素早く見つけ出せます。
この研究室は AI 、ロボット技術、化学・材料科学を組み合わせたシステムです。液体の計量や混合、反応条件の調整といった作業をロボットが自動で行い、人の手を煩わせません。機械学習が実験条件を状況に応じて調整する「セルフドライビング」方式で、効率的な研究を実現しています。
実験の効率化により、使用する化学薬品の量が大幅に減り、廃棄物も大きく削減されます。これまで数年かかっていた新素材の開発が、数日で完了する可能性も出てきました。研究スピードの向上と環境配慮を両立できる点が大きな特徴です。
応用先としては、太陽電池や次世代バッテリーなどのクリーンエネルギー分野、半導体や導電性材料といった電子部品分野、環境に優しい化学物質の開発などが考えられます。どの分野でも、従来の試行錯誤による研究から、データに基づく効率的なアプローチへの転換が期待されています。
研究責任者の Milad Abolhasani 教授は「将来の材料発見では、速さだけでなく、その方法が環境や社会に与える影響も重要になる」と話しており、持続可能な研究開発の必要性を強調しています。
この技術は材料科学以外の分野、例えば薬の開発や化学反応の最適化にも応用できます。研究チームは今後、システムをさらに発展させ、他の研究機関とも連携して技術の普及を目指しています。
科学研究の効率化だけでなく、持続可能な社会の実現にも貢献する技術として、大きな注目を集めそうです。この研究成果は Nature Chemical Engineering 誌の 2025 年 7 月 14 日号に掲載されています。