英 Financial Times によると、フランス発の AI スタートアップ「 Mistral AI 」が、最新の資金調達ラウンドで推定 10 億ドル(約 1480 億円)を調達し、企業評価額を 100 億ドル(約 1 兆 4800 億円)に引き上げる交渉を複数の海外投資家やアブダビの MGX ファンドと進めているとのことです。これは前回 2024 年 6 月の評価額約 67 億ドルからほぼ倍増となる大型調達となります。
Mistral AI は 2023 年 4 月に設立された新興企業で、創業者は Google DeepMind や Meta で AI 開発に携わったフランス人エンジニア 3 名です。同社はオープンソースを含む大規模言語モデル( LLM )を開発し、「 Le Chat 」という AI チャットボットでヨーロッパのテック主権や透明性を推進しています。米国や中国に依存しない「欧州主権 AI 」の確立を目指し、規制適合やデータ主権、企業カスタマイズに強みを持つ企業として注目を集めています。
同社の急成長ぶりは目覚ましく、設立からわずか 2 年余りで総調達額は 10 億ユーロ(約 11 億 9000 万ドル)を超える規模に達しています。投資家には Nvidia 、 Andreessen Horowitz 、 Lightspeed Venture Partners などビッグネームが参加しており、一部はフランス国営系銀行の Bpifrance などから数億ユーロ規模の融資も検討されています。 2024 年の売上は推定 3000 万ドル(約 44 億円)、 2025 年は 6000 万ドル(約 89 億円)超を狙う急成長企業となっています。
今回調達する資金の使途は多岐にわたります。まず、チャットボット「 Le Chat 」や大規模言語モデルの商用展開を加速させる計画です。また、パリ近郊に欧州市場向けの巨大 AI データセンターを MGX / Nvidia と共同建設し、 AI クラウドサービスも展開する予定です。さらに、 BNP パリバ、 AXA 、 CMA CGM など欧州の大手企業との契約を拡大し、エンタープライズ向け AI ソリューションへの展開も進めていきます。
特に注目すべきは、アブダビの政府系ファンド MGX との連携です。 MGX は 1000 億ドル(約 14 兆 8000 億円)規模の AI 専門投資ファンドで、この資金調達により Mistral AI は中東市場への展開も視野に入れています。グローバル展開としては、米国・アジア(シンガポール等)市場進出も計画されており、真の意味でのグローバル AI 企業を目指しています。
投資家や業界からの評価も高く、 Mistral AI はヨーロッパ随一の成長株とされ、 OpenAI や Anthropic に次ぐ「西側のサードオピニオン」と目されています。欧州規制や政府との連携を図りつつ、技術・収益モデルの米中対抗力を高める戦略が評価されているのです。同社 CEO は独立性を重視し「売却は考えておらず、将来的には IPO も視野」に入れているとコメントしています。
Mistral AI の成功は、欧州 AI エコシステムの拡大を象徴しています。欧州の生成 AI 分野への投資額は 2019 年から 2024 年で 61 億ドルに達していますが、これは世界全体の 696 億ドルと比べるとまだ小規模です。しかし、 Mistral AI のような企業の台頭により、欧州発の AI 技術が世界市場で存在感を増していく可能性があります。