Microsoft は 2025 年 3 月 3 日、医療従事者向けの音声 AI アシスタント「 Dragon Copilot 」を発表しました。このツールは臨床文書作成の効率化や医療タスクの自動化を目的としており、医師の管理業務における負担軽減を実現するソリューションとして注目を集めています。
Dragon Copilot は、Microsoft が 2021 年に買収した AI 音声技術企業 Nuance の技術を基盤に構築されています。具体的には「 Dragon Medical One 」の自然言語の音声認識技術と「 DAX Copilot 」の環境音声認識技術*を統合し、さらに進化させたものです。過去 1 か月だけでも 600 以上の医療機関で 300 万件以上の会話支援実績があるという DAX の実績を引き継ぎ、さらに進化させています。
主な機能として、診察時のメモや紹介状を音声入力で自動作成する「音声文書作成」、医師と患者の会話をリアルタイムで認識し電子カルテに反映する「環境音声認識」、管理業務の効率化を支援する「タスク自動化」、信頼性の高い情報源から迅速に医療情報を提供する「医療情報検索」などがあります。さらに、多言語対応により、グローバルな医療現場でも活用可能です。
この開発の背景には、医療業界における深刻な問題があります。Microsoft によると、医師は 1 週間に平均 28 時間もの時間を文書作業に費やしており、これがバーンアウトの大きな要因となっています。2024 年のデータでは医療従事者のバーンアウト率は 48 % と、依然として高水準です。
Microsoft の調査によれば、Dragon Copilot の構成技術を使った臨床医は患者 1 人当たり約 5 分の時間を節約し、使用者の 70 % が疲労感の軽減を実感、さらに 93 % の患者が「全体的な体験が向上した」と回答したとのことです。
今後の展開スケジュールとしては、2025 年 5 月に米国とカナダで提供開始、その後 英国、ドイツ、フランス など欧州諸国へ展開される予定です。日本を含む他の主要市場への拡大も計画されていますが、具体的な日程は未発表となっています。
生成 AI を用いた医療ツールには正確性やプライバシーの懸念もあり、Microsoft はセキュアなデータ基盤や医療特化の保護機能を組み込み、「責任ある AI デザイン」を掲げています。
筆者の視点: 2025 年の展望でも書きましたが、今後は基盤モデルの進化を追求するフェーズから、それを各業界に特化させた「アプリケーション開発」のフェーズに移っていくことが予想されます。今回の Microsoft の動きはその一環と捉えることができるかと思います。今後、医療現場だけでなく、様々な場所に特化した AI アプリケーションの発表が続いていくものと思われます。
*「 DAX Copilot 」( Dragon Ambient eXperience Copilot ):医療現場での会話全体を録音し、その内容を分析して自動的に臨床文書を作成する技術