Microsoft、癌治療向け AI ツール GigaTIME をオープンソースで公開

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Microsoft は、がん研究や診断に大きな進展をもたらす新たな AI モデル「GigaTIME」を、オープンソースとして公開しました。これまで高額な費用と長い時間を要していた詳細な腫瘍分析を、安価な組織スライドから実現できるのが特徴です。わずか約 10 ドル(約 1,560 円)のスライド画像から、数千ドル(数十万円)相当の知見を数秒で引き出せるため、がん医療のアクセス性と効率の大幅な向上が期待されています。

GigaTIME は、Microsoft Research、Providence Health、ワシントン大学が共同で開発したマルチモーダル AI モデルです。病理検査で広く使われているヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色の組織スライド画像を解析し、腫瘍内の免疫活動を可視化した詳細な腫瘍マップへと変換します。これは、一般的なスライド画像と高度な免疫スキャン結果を対応づけて学習させることで実現されています。

従来、腫瘍の免疫微小環境を調べる多重免疫蛍光(mIF)法は、1 サンプルあたり数千ドルのコストと数日間の処理時間が必要で、臨床現場での利用には大きなハードルがありました。GigaTIME は、こうした課題を克服し、コストと時間を劇的に削減することで、より多くの患者や研究者が高度な腫瘍解析を活用できる環境を提供します。

モデルの学習には、Providence Health から提供された約 4,000 万個の細胞サンプルが使用されました。検証段階では、14,000 人以上のがん患者データをもとに、24 種類のがんと 306 のサブタイプにわたる約 30 万枚の腫瘍画像からなる仮想ライブラリを構築しています。この大規模解析により、免疫活動と患者の生存率などを関連づける 1,200 以上のパターンが特定されました。

GigaTIME がオープンソースとして公開されたことで、研究者や臨床医は、専門的で高価な検査に頼ることなく、大規模研究やバイオマーカー探索を加速させることが可能になります。本モデルは、昨年公開されたがん診断向け AI「GigaPath」を基盤としており、両者を組み合わせることで、より包括的で精度の高い解析が期待されています。

将来的には、組織サンプルに加えて CT や MRI などの画像データを統合し、疾患の進行や治療反応を予測することで、個別化医療の推進につながる可能性があります。低コストかつ迅速な腫瘍解析は、がん治療の在り方を変え、より多くの患者に先進的な医療を届けるための重要な一歩となるでしょう。