Meta は 2025 年 6 月、 AI の分野で人間の知能を超える「スーパーインテリジェンス」の開発を目指す新部門「 Superintelligence Labs ( MSL )」を設立しました。しかし、設立からわずか数ヶ月で、相次ぐ人材流出と外部パートナーとの関係悪化により、大きな混乱に陥っています。
高額報酬でも続く人材流出
MSL は OpenAI や Google DeepMind などの競合企業から、数千万ドル規模の高額報酬で研究者を積極的に引き抜きました。しかし、設立から 2 ヶ月程度で少なくとも 8 名のコアスタッフが退職する事態となっています。
特に注目されるのは、 MSL の中核である「 TBD Lab 」の研究者らが、入社後わずか数週間から 1 ヶ月足らずで OpenAI に復帰するケースが続いていることです。 Avi Verma や Ethan Knight といった研究者が短期間で離職し、生成 AI の製品管理ディレクターの Chaya Nayak も OpenAI に移籍しました。
これらの離職により、従来から Meta にいた AI チーム内では給与格差や職責の変化に対する不満が高まり、社内摩擦が生じています。高額報酬の新規採用者と既存スタッフとの間に緊張関係が生まれており、組織の結束に影響を与えています。
Scale AI との提携にも亀裂
Meta は Scale AI との戦略的提携にも問題を抱えています。同社は Scale AI に約 143 億ドル(約 2 兆 1300 億円)を投資し、 AI モデルの訓練やデータインフラ強化を図りましたが、方針の違いや組織内の複雑な意思決定構造により連携が思うように進んでいません。
Scale AI から移籍したエグゼクティブの Ruben Mayer は、わずか 2 ヶ月で退職しました。 TBD Labs の研究者からは Scale AI のデータ品質に対する不満の声が上がっており、代わりに競合の Surge や Mercor のデータを使用する傾向が見られます。これは Meta の巨額投資の効果に疑問を投げかける結果となっています。
組織の不安定さが露呈
MSL は過去 6 ヶ月で 4 回目となる大規模な組織再編を実施し、研究、製品、インフラ、 TBD Labs の 4 つのグループに分割されました。この頻繁な再編は組織の不安定さを物語っており、スタッフの混乱を招いています。
さらに、 Meta の最新 AI モデル「 Llama 4 Behemoth 」のパフォーマンスが期待を下回り、一般公開が見送られたことも、内部の不安を増大させる要因となっています。
AI 人材戦争の厳しい現実
CEO の Mark Zuckerberg は「 AI スーパーインテリジェンス」獲得を目指して積極的な投資を続けていますが、現在は 2025 年予算計画の一環として MSL の採用を一時停止しています。高額報酬だけでは優秀な研究者を定着させることができず、研究環境やビジョンの魅力が重要であることが明らかになりました。
Meta が AI 分野での競争力強化を実現するには、内部の結束を強化し、研究者にとって魅力的な環境を構築することが急務となっています。設立直後から「波乱の幕開け」となった MSL の今後の安定化と戦略再構築が注目されます。