2024 年 9 月、41歳の起業家 Matthew Gallagher はロサンゼルスの自宅を拠点に、わずか 2 万ドル(約 300 万円)の資金と自分一人で医療系スタートアップ Medvi を創業しました。外部から調達した資金はなく、雇用した従業員もいません。コード開発には ChatGPT ・ Claude ・ Grok 、広告制作には Midjourney ・ Runway 、顧客対応には ElevenLabs といった AI ツールを使い、月に数百ドルのサブスクリプション費用だけで事業を動かしています。
その結果は驚くべきものです。ニューヨーク・タイムズが 2026 年 4 月 2 日付で財務データを直接確認したところ、創業初年度の 2025 年に売上 4 億 100 万ドル(約 601 億円)、顧客数 25 万人超、純利益率 16.2% を達成していました。現在の売上は 1 日あたり約 300 万ドル(約 4 億 5,000 万円)に達しており、2026 年中には年間 18 億ドル(約 2,700 億円)の水準に届くと見られています。競合の Hims & Hers は 2,400 人以上のスタッフを抱えながら純利益率 5.5% にとどまっており、最近スタッフに加わった弟の Elliot との 2 人体制で運営する Medvi がその 3 倍近いマージンを出していることになります。
ビジネスモデルの設計も明快です。医師の手配・処方・調剤・物流・コンプライアンス対応といった規制が絡む業務は CareValidate と OpenLoop Health という専門会社に委託し、 Medvi 自身はブランディング・広告・顧客管理に絞っています。前職のスタートアップで 60 名規模の組織を経験し、人が増えるほどコストと意思決定の遅さが増すと実感した Gallagher が、あえて選んだ構造です。
OpenAI CEO の Sam Altman 氏はかねてから「近い将来、 AI だけで 10 億ドル企業を一人で作る人物が現れる」と公言しており、その予言が現実になるかどうかをテック CEO 仲間と賭けていたと伝えられています。 Medvi の登場を受けてメールで「賭けに勝った」とコメントし、 Gallagher 本人と会いたいと伝えたと報じられています。
ただし、課題も出てきています。 FDA は 2026 年 2 月 20 日に警告書( #721455 )を送付し、肥満治療薬セマグルチドやチルゼパチドに関する広告表現が FDA の承認を受けたかのような誤解を招くとして是正を求めました。同年 3 月 20 日にはスパムメール疑惑でカリフォルニア州連邦裁判所にクラスアクション訴訟( James v. Medvi LLC )が起こされています。さらに Meta の広告ライブラリには 800 件以上の医師プロフィールを使った広告が確認されており、そのなかに AI が生成した架空の医師アカウントが含まれているとの指摘もあります。
「 18 億ドル企業」という言い方についても、あくまで現在の売上ペースを年換算した数字であり、外部からの資金調達も公式な企業評価額も存在しないと指摘する声があります。こうした課題を抱えながらも、 Medvi は「個人でも 10 億ドル規模の売上を実現できる」という命題を、数字として初めて示した事例であることは間違いありません。 AI が事業の推進力として本格的に機能し始めた時代における、一つの歴史的な参照点として記憶されることになるでしょう。
