Google DeepMind は、AI がプログラムコードを自己改良する画期的なシステム「 AlphaEvolve 」を発表しました。この技術は、大規模言語モデル Gemini と進化的アルゴリズムを組み合わせたもので、科学や計算の複雑な問題を解決するためのアルゴリズムを自動で生み出します。
AlphaEvolve の仕組みはユニークです。まず高速処理が得意な Gemini 2.5 Flash が様々なプログラムのアイデアを大量に生成し、その中から優れたアイディアを抽出した後、必要に応じて詳細な分析に優れた Gemini 2.5 Pro がより洗練された改良を加えます。生成されたプログラムは自動でテストされ、生物の進化のように「良いもの」が生き残って次世代に受け継がれていくという流れを繰り返します。
この技術の威力を示すのが、数学における歴史的な記録更新です。1969 年に発見されて以来 56 年間破られなかった行列計算の最速アルゴリズムを、AlphaEvolve がついに上回りました。さらに、Google の AI モデル Gemini の学習に使われる計算処理を 23% 高速化し、全体の学習時間を 1% 短縮することにも成功しています。
実際のビジネスでも大きな効果を上げています。Google のデータセンター管理システムを改良した結果、世界中の計算リソースを平均 0.7% 節約できるようになりました。Google の規模では、この 0.7% は膨大な電力とコストの削減につながります。また、次世代の AI チップ(TPU)設計にも活用され、AI の処理効率向上に貢献しています。
数学の未解決問題への挑戦でも目覚ましい成果を残しました。50 以上の難問に取り組んだ結果、4 分の 3 のケースで既存の最良解と同等の答えを見つけ、5 分の 1 のケースではそれを上回る改善を実現しました。例えば、高次元空間での球の配置に関する「接吻数問題」では、数十年ぶりに記録を更新しています。
AlphaEvolve が他の AI プログラミングツールと大きく違うのは、既存のコードを改良するだけでなく、まったく新しいアルゴリズムを発明できることです。しかも、生成されるプログラムは人間が読みやすく、エンジニアがすぐに実用化できる品質を保っています。
ただし、万能ではありません。プログラムで表現でき、コンピュータで自動評価できる問題に限られるため、数値化が困難な課題や評価基準があいまいな問題には向いていません。また、大量の計算リソースが必要なため、Google のような巨大なインフラを持つ企業での利用が前提となります。
専門家の間では評価が分かれています。プリンストン大学の研究者は「進歩は比較的小さい」としながらも、この技術の汎用性の高さは認めています。一方で、AI が人間の専門知識を超える創造的な解決策を生み出せることを証明した点で、大きな意義があるとの見方もあります。
現在、AlphaEvolve は Google 社内でのみ使われていますが、将来的には外部の研究者や企業にも提供される可能性があります。この技術がさらに普及すれば、科学研究やエンジニアリングの分野で新たなブレークスルーが期待できそうです。