アメリカ連邦地裁が 2025 年 9 月 2 日に下した判決により、Google は検索エンジン市場において違法な独占状態を維持していたと認定されましたが、司法省が求めていた Chrome ブラウザや Android OS の強制売却は回避されました。一方で、同社は独占的な配布契約の締結を今後 10 年間禁止され、検索データの一部を競合他社と共有する義務を負うことになります。
この判決は、2020 年に司法省と 11 州が Google を提訴した大規模な独占禁止法訴訟の続きです。2024 年 8 月、Amit Mehta 判事は Google が検索市場の約 90% を独占し、Sherman Act 第 2 条に違反していると認定していました。Google は Apple に年間約 200 億ドル(約 2 兆 9700 億円)を支払って Safari のデフォルト検索エンジンに設定してもらうなど、独占的地位を維持するための巨額投資を続けていたことが問題視されていました。
今回の判決で最も注目されるのは、司法省が強く求めていた Chrome ブラウザと Android OS の売却命令が却下された点です。判事はこれを「過度な措置」と判断し、Google がこれらの資産を直接的な違法行為に利用した証拠が不十分で、売却が市場のイノベーションを阻害する可能性があると指摘しました。この決定により、Google は主力事業の構造を維持できることになり、同社の株価は判決直後に約 8% 上昇しました。
その代わりに課された制裁措置は、独占的配布契約の禁止です。Google は今後 10 年間、Apple 、Samsung 、Mozilla などのデバイスメーカーやブラウザ開発企業との独占契約を結ぶことができません。これにより、これらの企業が Google 検索以外の検索エンジンを選択しやすくなり、競合他社の参入障壁が大幅に下がることが期待されています。
また、Google は検索インデックスやユーザーの行動データの一部を「認定された競合他社」と共有する義務も負います。クリック履歴などの検索結果生成に使用される集計データが対象となりますが、プライバシー保護が前提条件として設定されています。ただし、司法省が求めていたより広範囲なデータ共有は認められませんでした。
この判決では、生成 AI の台頭も考慮されています。Perplexity や ChatGPT などの AI チャットボットが検索市場に新たな競争をもたらす中、Google が AI 製品で同様の独占的戦術を使わないよう予防措置が講じられました。判事は AI による競争環境の変化が、過度な構造改革を避ける理由の一つだったと示唆しています。
Google は判決内容に不服を示しており、上訴する方針を表明しています。一方、司法省は「市場開放に必要な救済措置」として判決を歓迎しつつも、Chrome 売却の却下については批判的な立場を示しています。
この判決は Microsoft の 1998 年独占禁止法訴訟以来の大規模なケースであり、ビッグテック規制のモデルケースとして今後の AI 時代の競争政策に大きな影響を与えると予想されています。競合する Bing や DuckDuckGo などの検索エンジンにとっては成長の機会が広がる一方、Google にとっては独占契約に頼らない新たな競争戦略の構築が求められることになります。
最終判決は 9 月 10 日までに確定する予定で、その後 6 年間にわたって外部の技術委員会による監視体制が敷かれることになっています。