米国の大企業における生成 AI 活用が新たな段階に入りつつあります。Wharton Human-AI Research と GBK Collective が約 800 名を対象に実施した 3 年目の追跡調査によると、2025 年は「説明責任ある加速」(Accountable Acceleration)と呼ばれるフェーズに移行していると分析しています。
週に一度以上 AI を活用する企業の割合は 82% に達し、日常的に利用する企業も 46%(前年比 +17 ポイント)と急増しています。注目すべきは、単なる導入にとどまらず、72% の企業が投資対効果(ROI)を正式に測定するようになったことです。その結果、約 4 分の 3 の企業が AI 投資に対して投資以上の効果を確認できたと報告しています。
企業の AI への投資内容も大きく変化しています。これまでの試験的な導入(PoC: Proof of Concept)から本格実装へとシフトし、技術予算の約 3 割を自社内での AI の研究開発に振り向ける傾向が見られます。企業の関心は、単なる AI 技術の導入から、業務効率の向上や処理能力の拡大、収益アップといった具体的なビジネス成果を最大化することへとシフトしています。
部門別に見ると、IT 部門や購買・調達部門が AI の利用頻度と熟練度の両面で先行しており、マーケティング・営業部門や製造部門は後を追う形です。業界別では、テクノロジー・通信、プロフェッショナルサービス、金融が先駆者となっている一方、製造業や小売業はまだこれから、という段階にあります。
企業規模による AI 活用の差は縮小傾向にありますが、役職による認識の違いは依然として大きいようです。調査では、役員クラス(VP 以上)の 56% が「自社の AI 導入は業界平均よりはるかに速い」と評価しているのに対し、マネジャークラスではその割合が 28% にとどまるという興味深い結果も出ています。
人材やトレーニング面では、経営層の積極的な関与が目立ちます。経営層主導で AI を推進する企業は 67%(前年比 +16 ポイント)に上り、最高 AI 責任者(CAIO)を設置した企業も 6 割に達しています。データセキュリティ方針(64%)や社員向けトレーニングプログラム(61%)といった安全面の整備も進んでいます。
一方で、課題も明らかになっています。多くの企業が技術スキル不足に悩んでいるにもかかわらず、トレーニング投資は減少傾向(前年比 -8 ポイント)にあり、トレーニングの効果に対する確信も弱まっています(-14 ポイント)。高度な AI スキルを持つ人材の採用が難しい(49% が指摘)状況下で、内部育成と外部採用のバランスをどう取るかが重要な課題となっています。
この調査は、従業員 1,000 名以上、年間売上 5,000 万ドル(約 75 億円)を超える米国の大企業の意思決定者を対象に、2025 年 6 月 26 日から 7 月 11 日にかけて実施されたものです。
調査結果から、2026 年以降は「規模で成果を出す」段階への転換点になると予測されています。企業はこれまでに確立した ROI 測定手法やベストプラクティス、リスク管理策をもとに、業務フローの根本的な再設計や AI エージェントの本格導入、予算の大幅な再配分などに取り組むことになりそうです。
