元 Google CEO のエリック・シュミット氏が支援する非営利団体 FutureHouse は、化学分野に特化した AI モデル「 ether0 」を発表しました。このモデルは、薬の候補となる分子の設計など、化学分野の専門的なタスクで従来の AI を大きく上回る性能を示しています。
ether0 は、Mistral-Small-24B-Instruct-2501 をベースに、化学分野の問題解決に最適化された 24B パラメータの大規模モデルです。その大きな特徴は、答えを出すまでの「考える過程」を人間が理解できる形で表示することです。従来の AI は最終的な答えしか示さないため、なぜその結論に至ったのかが分からない「ブラックボックス」と呼ばれる問題がありました。しかし ether0 は、推論の各ステップを自然な言葉で説明しながら答えを導き出すため、科学者が AI の判断根拠を確認できます。
性能面では、 OpenAI の GPT-4.1 や DeepSeek-R1 といった最先端の AI と比較して、化学分野のタスクで 2 倍以上の精度を記録しました。特に新しい薬の候補となる分子を設計する作業では、人間の専門家を上回る結果も示しています。これまで専門家の経験と知識に頼っていた分野で、 AI が強力な支援ツールとなる可能性を証明しました。
技術的には、「強化学習( Reinforcement Learning )」という手法を使って訓練されています。これは AI に正解だけを教えるのではなく、試行錯誤を通じて最適な思考方法を学ばせる仕組みです。その結果、わずか 50,000 の学習例で新しいタスクを習得できる高い学習効率を実現しています。
実用性も高く、例えば特定の効果を持つ薬の分子構造を設計したり、化学反応の経路を提案したりといった、創薬研究の現場で直接役立つ機能を備えています。これにより、新薬開発の期間短縮やコスト削減に貢献する可能性があります。
FutureHouse は、このモデルをオープンソースとして無料公開しており、世界中の研究者が自由に利用・改良できるようにしています。これにより、化学分野での AI 活用がさらに加速することが期待されます。
ただし、現時点では一部で間違った答えを出すこともあるため、専門家による確認は引き続き必要とされています。