Anthropic の法務プラグインが引き起こした SaaS 株の暴落

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Anthropic は 2026 年 1 月 30 日、自律型 AI エージェント機能「 Claude Cowork 」向けに 11 種類の業務特化プラグインを公開しました。中でも注目を集めたのが法務向けプラグインで、契約書の自動レビュー、 NDA の分類・仕分け、リスク評価、コンプライアンス追跡、リーガルブリーフィングの作成など、従来は弁護士や法務チームが手作業で行っていた業務を AI エージェントが自律的に処理できるというものです。

この発表を受けた 2 月 3 日、市場では法務・データ関連企業の株価が軒並み急落しました。法律データベース大手の Thomson Reuters は 18 %下落し同社史上最大の単日下落を記録、 RELX は 14 〜 17 %、 Wolters Kluwer は 13 %の下落となりました。売りは法務以外にも波及し、 Salesforce が最大 11 %、 Workday が 9 %下落するなど SaaS セクター全体に広がりました。米国市場だけで 2,850 億ドル(約 43 兆円)の時価総額が一日で消失したと報じられています。日本でも弁護士ドットコムや Sansan など SaaS 関連銘柄に売りが波及し、「 SaaS の死」という見出しがメディアで踊りました。

投資家が恐れたのは、 AI エージェントによる SaaS ビジネスモデルの崩壊です。従来の SaaS はユーザー数課金(シート課金)モデルが主流ですが、 AI エージェントが業務フローを丸ごとこなせるようになれば、企業は少ない人数で同じ成果を得られ、 SaaS の契約数や利用料が減少するシナリオが現実味を帯びます。特に Anthropic は自社で基盤モデル( Claude )を開発しているため、業界特化のカスタマイズから業務フローの直接取り込みまで垂直統合できる立場にあり、既存 SaaS 企業の「中間層」としての価値が上流から侵食されるリスクが意識されました。

一方、この急落は過剰反応だとする見方もあります。 Thomson Reuters や RELX などは数十年蓄積した専有データという強固な資産を持っており、プラグイン一つで簡単に置き換わるものではないという指摘です。

今回の出来事は、 AI が「人間の補助ツール」から「業務そのものを代替するエージェント」へフェーズが移りつつあることを市場が強く意識した象徴的な事例です。法務に限らず、営業・マーケティング・財務など、「人× SaaS 」を前提としたビジネスモデル全般の再構築が求められる局面に入ってきたと言えそうです。