すでに記事をリリースしていたと勘違いしていて、後編のリリースがすっかり遅くなってしまいましたが、2025 年の動向予測の後編をお届けします。(もう 3 月も半ばになってしまいました・・・。大変失礼しました)
前編では、 1 )基盤モデルの進歩の鈍化、2 )前後処理による性能向上とハルシネーションの減少、3)エージェント化の進展、そして 4)新しいベンチマークの必要性、について展望しました。今回は後編として、残りの 4 つのトレンドについて見ていきます。
5 )アプリケーションレイヤーへの移行が進む
AI の発展は大きく 3 つのレイヤーに分けられると考えています。第 1 レイヤーは半導体そのものと学習を効率化するための SDK、第 2 レイヤーは基盤モデル、そして第 3 レイヤーはアプリケーションです。今までは第 1、第 2 レイヤーが話題の中心でしたが、2025 年はこの第 3 レイヤーであるアプリケーションレイヤーへの移行が活発化してくると予想されます。
基盤モデルの性能向上が落ち着きを見せ始める中、今後はそれらをベースに構築される多様な AI ネイティブアプリケーションが誕生してくる年になるはずです。例えば、法律分野での契約書レビューや法的アドバイス、医療分野に特化したアプリケーション、プログラミングの自動化、セールスフォースのような CRM と AI の統合など、特定分野に特化した本格的なアプリケーションの登場が期待されます。
AI ブームは一時的なものではなく、これから数十年続いていく潮流となります。その過程で、まだ想像できていないキラーアプリケーションが登場することになると思われます。初期のスマートフォン登場時に、Uber や Airbnb のようなサービスがここまでの広がりになることを予測できた人がほとんどいなかったように、AI の世界でも現在実現されていない様々なサービスが生まれていくことになります。2025 年はその始まりの 1 年目、ということになるかと思います。
6 )AI 企業の IPO が始まる
2024 年、NVIDIA をはじめとする AI 関連銘柄の株価は急騰しました。しかし、2022 年の ChatGPT リリース以降、AI 関連で IPO (新規株式公開)を果たした企業は、例えば Palantir などまだ数社にとどまっています。
2025 年は、AI スタートアップの IPO がぼちぼち発表され始める年となるでしょう。
ただし、まずは従来からビジネスを展開していて、AI で業績が急拡大した企業が上場する流れが中心になると思われます。ChatGPT 登場以降に設立された AI ネイティブのスタートアップの本格的な上場は、2026 年以降になる見通しです。
7 )自動運転の急速な進化
自動運転技術は 2025 年、さらなる進化を遂げることが予想されています。乗用車の自動運転分野ではテスラや中国企業が牽引し、Waymo は完全無人のロボタクシーのサービスを全米の都市でさらに拡大させていく計画があります。
現在、テスラは実走行データをもとに AI 自動運転ソフトウェアのトレーニングを重ね、この分野では独走状態にあります。テスラのデータ収集戦略は、販売した車両から常時データを集め、そのデータを AI の訓練に活用するというもので、これにより数十億マイルに及ぶ実走行データを蓄積し、それを大量に確保した GPU 上で自動運転 AI のトレーニングを重ねています。この膨大なデータと大規模なトレーニング施設は、テスラの自動運転 AI の精度向上に大きく貢献しています。
完全無人のロボタクシー分野では Waymo が米国市場でリードし、営業走行距離でも大きく水をあけています。一方で、中国メーカーも中国国内での運用を通じて急速に追い上げている状況です。特に百度(Baidu)の Apollo Go (アポロ・ゴー)は中国国内の複数都市でロボタクシーサービスを展開し、その規模を拡大しています。
既存の自動車メーカーは実走行データの蓄積で後れを取っていますが、挽回の道がないわけではありません。NVIDIA が発表したシミュレーション技術を活用することで、実世界のデータなしでも AI の学習を加速させる取り組みが進むと予想されます。NVIDIA の DRIVE Sim は、同社が現実世界の「 Digital Twin 」と呼ぶ仮想空間内の高度なシミュレーション環境で自動運転 AI を訓練することを可能にし、現実世界での危険なシナリオも安全に学習させることができます。
2025 年には、こうしたシミュレーション空間内で学習した AI 自動運転技術を搭載した車が、従来の自動車メーカーからも徐々に登場してくるでしょう。ただし、既存の自動車メーカーが、自動運転やロボタクシーの分野でテスラや Waymo、複数の中国企業に追いつくのは(かなりの先行を許してしまった分)時間がかかるものと思われます。
8)ヒューマノイドロボットの実用化へ
2024 年はヒューマノイドロボットの話題が相次ぎましたが、 2025 年からは製品化されたロボットが徐々にリリースされていく予定です。Tesla の Optimus ロボットや Figure など各種スタートアップが開発しているヒューマノイドロボットは、人間と同様の形状を持ち、人間のために設計された環境でスムーズに作業を行うことができます。
製品化する上で問題となっていたトレーニングデータ不足の問題も、(自動運転と同様)Google DeepMind などによる物理エンジンを活用したシミュレーションデータの作成によって解決の方向性が見えてきています。これは、実世界でのロボットの学習が時間とコストがかかる問題を解決する重要なアプローチです。仮想空間上のシミュレーションで何千、何万回もの試行錯誤を行い、その学習結果を実機に転送することで、効率的にロボットの能力を向上させることができます。
最初の導入は工場や倉庫など、動作環境をコントロールできる場所になると思われます。これらの場所は人間のスケールで設計されているため、オートメーションから漏れてしまい、従来は人間にしかできなかった複雑な作業をヒューマノイドロボットが代替していくことになるでしょう。特に、重い物の持ち運びや危険な環境での作業など、人間にとって負担の大きい仕事から置き換えが進むと予想されます。
ただし、コスト面では課題が残ります。労働コストの低い地域では 24 時間人間を雇用した方が安上がりなため、高い初期費用をかけてロボットを導入するメリットは限られています。ロボット技術の初期コストは当初それなりに高くなることが予想され、投資回収に時間がかかる点が課題となるでしょう。
一方、アメリカなど労働コストの高い国では導入のメリットが大きくなりますが、それに伴う雇用問題も浮上してきます。移民が安い賃金で働くことで「アメリカ人の仕事が奪われる」という声が、今回トランプ政権の誕生を大きく後押ししましたが、今度はロボットの導入によって雇用が脅かされるようになります。
ただ、日本のような少子高齢化で深刻な労働力不足に悩む国にとっては、大量の移民を自国に招くことなく労働力不足を解消し、生産性を向上させる手段として期待されます。特に製造業の他にも、介護や医療の現場での人手不足解消など、具体的な課題解決のツールとして活用が見込まれます。
おまけ)Physical AI の台頭
自動運転やヒューマノイドロボットのような動きは、総称して「Physical AI(物理 AI)」と呼ばれています。これは、自動車やロボットをはじめ、ドローンや手術支援ロボットなど、デジタル領域にとどまらず、物理的な行動を実行する AI が注目を集めている潮流を指します。
これまでの AI は主にデジタル空間での情報処理や意思決定を担ってきましたが、Physical AI は実世界での物理的なアクションを伴うという点で、 AI の応用範囲を大きく広げるものです。 2025 年は、まずは自動車やロボットの分野を中心に Physical AI の導入は進むと思われますが、今後はそれ以外の分野でも AI の導入が進んでいくと思われます。
例えば、手術支援の分野では、「ダヴィンチ」などのロボット支援手術装置がすでに普及していますが、今後は AI による支援機能が強化されることで、より高精度で安全な手術が可能になると期待されています。同様に製造業ではロボットアームやマニピュレータに AI を組み込む動きが進むでしょう。農業分野でドローンや自律的に行動する農業機械も出てくるはずです。
こうした Physical AI の実世界への投入が 2025 年から本格的に進んでいくものと思われます。今年はキーワードとして「 Physical AI(物理AI )」に注目です。
以上、 AI の 2025 年トレンド展望、後編をお届けしました。いずれにしても、 2025 年は実社会への AI 適用がさらに進んでいく年になると予想されますが、日々の仕事や生活がどのような変化を遂げていくのか、楽しみに見守りたいと思います。