AIの発展に伴う電力需要の急増と原子力エネルギーの再評価

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Google、Microsoft、Amazon、Oracleをはじめ、大手テクノロジー企業(ビッグテック)が、AIモデルのトレーニングや実行に必要なデータセンターの電力供給源として、原子力エネルギーの活用に動いています。

言うまでもなく、AIモデルのトレーニングと実行には膨大な電力が必要です。

現状では、NVIDIAが独占している「AIチップの供給不足」がAIモデルの進化を阻むボトルネックとなっていますが、競合企業の追随やNVIDIA自身の生産能力向上に伴い、徐々に解消されつつあります。そうした中、今後はAIモデルのための巨大なデータセンターの電力をどのように確保するか、が問題となってきています。

そうした問題を考え、2023年末頃から、たとえばMicrosoftは原子力発電ベンチャーや核融合ベンチャーへの投資を進め、またAmazonはペンシルベニア州の原子力発電所隣接地にデータセンターを建設するなど、大手テクノロジー企業の具体的な動きが様々に見られるようになってきています。

中でも注目されている技術は主に二つ。一つは、従来よりも小型の原子力発電所を建設するSMR(
Small Modular Reactor:小型モジュール炉)技術、もう一つは商業的核融合技術です。

まず、SMRに関してですが、現在稼働している原子力発電所の多くは50〜60年前に設計されたものですが、その後の技術進化により、SMRなどの新しい原子力発電技術が誕生しています。

SMRの特徴としては、電力出力が300MW以下と従来の大型原子炉(1000MW級)の約3分の1以下のサイズであること、工場で製造したモジュールを現地で組み立てる方式を提唱していることなどが挙げられます。モジュール化では、建設期間の短縮や大幅なコスト削減が期待されています。また、そもそも小型・低出力であることを活かし、「自然に止まる」「自然に冷える」といった受動的安全性が高まることが期待され、大きな事故を起こしにくいと言われています。

現在、世界では80以上のSMRが計画されていますが、すでに稼働しているのはロシアと中国の1か所ずつしかなく、本格的な実用化は早くても2030年頃になると予測されています。

福島第一原子力発電所事故以降、世界は脱原発に向けて一気に動いていましたが、ここにきて原発回帰の動きが加速しています。

その主な要因は上記のAIの台頭と、ESG(環境・社会・ガバナンス)にあります。

AIの進展により電力需要が急増し、既存の電力源では対応が難しくなっているのと同時に、大手テクノロジー企業の多くはESGへの対応の必要性から、中期目標としてカーボンニュートラルを宣言してしまっているため、火力発電に依存することができません。もちろん太陽光・風力などの再生エネルギーにも取り組んではいますが、そもそも必要とされる電力量が膨大で、それでは間に合わないのです。そこで、十分な電力供給が見込まれ、比較的安全性が高いとされる小型原子力発電に向かっている、という流れです。

今後、世界中でかなりの数の原子力発電所が新設されていくことが見込まれます。そうした中、福島を経験している日本も今後AI開発を進めていく上で、この流れに乗るのか、どうするのか、早急な議論が求められるのではないかと思います。

*長くなってしまいましたので、商業的核融合技術については、別の機会に取り上げたいと思います。