【Editor’s Insight】アプリケーション開発競争のトレンドが加速 〜 「 Wrapper 」を超えて

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2024年前半、「ラッパー(Wrapper)サービス」という言葉が AI 業界で流行しました。これは基盤モデルの上に構築されたサービスを指し、当時は「薄い」ラッパーと「厚い」ラッパーに分類されていました。「薄いラッパー」は基盤モデルに単純なインターフェースを被せただけのもの。「厚いラッパー」は基盤モデルの機能をより高度に拡張したサービスを指していました。複数の基盤モデルを使いながら「検索」というアプリケーションに特化した Perplexity は「厚いラッパー」の代表例としてよく引き合いに出されていました。

しかし、基盤モデルに単純なインターフェースを被せただけの「薄いラッパー」サービスが乱立したことで、次第に「ラッパーサービス」という言葉は「低い評価」を意味するようになっていきました。多くのラッパーサービスが十分な価値を提供できないまま市場に出回った結果、「ラッパー」という言葉自体がネガティブな意味合いを帯びるようになったのです。

自然と、Perplexity のような本格的なサービスを提供する企業は「ラッパー」と呼ばれることを嫌うようになりました。実際、Perplexity は現在、企業評価額を 180 億ドルに倍増させる可能性のある新たな資金調達ラウンドに入っており、わずか 1 年足らずで評価額が 6 倍に増加する見込みです。CEO の Aravind Srinivas 氏は「 Perplexity がラッパーであるという誤解は時間とともに消えていくだろう」と述べ、同社は独自に AI モデルを構築し自前で運用できる技術力を持つ、と主張しています。

現在、AI 業界では、

  1. 基盤モデルからアプリケーション層への移行と、
  2. それを支える基盤モデル自体の大幅なコスト低下

という 2 つの大きなトレンドが進行中です。特に後者については、DeepSeek をはじめとする各種オープンソースモデルの性能向上と大幅なコスト低下が顕著になっています。これにより、企業は自社保有のデータセットを使って微調整やモデルのポストトレーニングを行い、特定分野に特化した独自の AI モデルを構築することが可能になりました。

たとえば、医療用 AI アプリ企業「 Abridge 」も同様の立場を取っています。同社は医師と患者の会話から診療記録や請求コードを生成する技術を開発しており、CEO の Shiv Rao 氏は「もはや AI で勝つには莫大な資金で大規模モデルを事前学習させるしかないという時代は終わった」と語ります。現在は「T 字型」の企業、つまりアプリ面も技術面も深くカバーする企業が評価される時代になってきており、多くの AI スタートアップは独自データセットを用いたモデルの微調整や後処理を行っています。

このようなアプリケーション層の企業は、インターフェイスを被せるだけでなく、基盤モデルそのものの開発までは手がけないものの、それなりに時間とコストをかけて、オープンソースモデルをもとにしながら自社内でモデルのトレーニングを実行し、新たな価値を創出しています。以前はこうした企業を「厚いラッパー」と呼んでいましたが、今では明確にそれを超えた存在として認識されるようになっています。

サンフランシスコ・ベイエリアでは、Perplexity や Abridge といったアプリケーション層の AI 企業が次々と注目を集めてきており、従来の「基盤モデル開発企業」一強という構図が崩れ始めています。2025年のトレンドはアプリケーション層の開発企業が話題の中心になっていく、という見方が業界のコンセンサスとなってきています。

*参考:CNBC「The rise of the AI ‘wrappers’」2025/3/21