2026年 Q2 決算シーズンで、 S&P500 全体の利益成長率が前年比約 47% という高水準を記録しています。ただ、この数字をそのまま受け取るのは少し注意が必要です。利益の相当部分が、実際にキャッシュが入ってくるわけではない投資先企業の「評価益」によって膨らんでいるからです。
Alphabet は 2026年7月22日に Q2 決算を発表し、最終利益が前年比 298% 増の 1,121 億ドル(約16兆8,150億円)になったと報告しました。ここで注目すべきはその内訳です。この利益のうちの 990 億ドル(約14兆8,500億円)は Anthropic や SpaceX を中心とした出資に伴う評価益が利益の大半を占めていて、こうした投資評価益は広告やクラウドといった本業の成長とは切り離して考える必要があります。
Amazon も 2026年7月30日の Q2 決算で、純利益が前年同期の 182 億ドル(約2兆7,300億円)から 626 億ドル(約9兆3,900億円)へ大幅に増えたと発表しました。しかしこちらも、増加分の大部分にあたる約 530 億ドル(約7兆9,500億円)は主として Anthropic 株式の評価益です。本業の稼ぐ力を示す営業利益は 275 億ドル(約4兆1,250億円)で、これ自体も前年比 43% 増と非常に堅調ではありますが、評価益を足し合わせた純利益の数字からは大きくかけ離れている点は注意が必要です。また、 AI データセンターへの大規模投資が続いており、直近 12 カ月のフリーキャッシュフローは 76 億ドル(約1兆1,400億円)のマイナスとなっています。
この構図をさらに複雑にしているのが、「循環的」とも呼べる資金の流れです。Alphabet や Amazon が Anthropic に段階的に出資するたびに、同社の企業価値は切り上がって上昇し、両社が保有する持ち分の評価益も膨らんでいきます。その一方で、出資と並行して、Anthropic は Google Cloud や AWS を大規模に利用する契約(コミットメント)を結んでいます。つまり、両社が投じた資金の一部は、クラウド利用料として再び Alphabet や Amazon に戻り、それぞれのクラウド事業の売上や利益として計上されます。投資によって企業価値が高まり、投資した資金がクラウド利用料として投資元に還流する、そしてまた次の投資につながっていくという循環が繰り返されているとも言えるのです。(*)
ロンドン証券取引所グループ傘下の金融データ会社 LSEG の集計では、巨額の投資利益を計上した Alphabet と Amazon を除くと S&P500 の利益成長率は約 48% から約 29% に下がるとしています。
テクノロジー業界に特化した独立系リサーチ会社 Radio Free Mobile の Richard Windsor 氏は、こうした未実現投資利益について、「投資先に問題の兆候が現れれば急速に失われるもの」と指摘しています。またコロンビア大学ビジネススクール講師の Robert Willens 氏も、未実現評価益を利益計上することを義務付けた 2018 年のルール改定が「投資家にとっての判断を難しくしている」と改めて警鐘を鳴らしています。 Big Tech の AI 投資がさらに拡大する中、決算の数字が何を意味しているのかについては、冷静に読み解くことがいっそう重要になってきています。
*ただし、Anthropic の企業価値は Alphabet や Amazon だけでなく、多数の独立した機関投資家が参加する資金調達によって形成されており、またクラウド利用料も実需に基づく実際のモデル開発・運用に必要な計算資源への対価であるため、こうした資金の還流は、実体のない売上を作り出す典型的な循環取引とは本質的に異なり、直ちに問題とは言えないとの見方もあります。
*タイトルに、今回の循環的な構造を「新たな」とつけましたが、2022年末から始まった今回の「AI 熱狂」の中では、たびたび同様の収益構造が取り沙汰されています。主なものを挙げると、初期にはMicrosoftとOpenAIの関係、次にNvidiaとOpenAIの関係など、です。その度に市場では「問題がある・ない」の激しい議論がなされています。今回はその流れの中で、新たに指摘された企業群(Google/Amazon/Anthropic)に関しての話題でしたので、「新たな」としています。
