【 Editor’s Insight 】米国データセンター建設に住民反対の壁、約 10 兆円相当の案件が中止・遅延

投稿者:

少し前のレポートになりますが、米調査団体「 Data Center Watch 」が 2025 年 3 月に発表したレポートが最近業界内で話題を呼んでいます。同レポートによると、この 2 年間で合計約 644 億ドル(約 10 兆 1800 億円)相当の米国データセンター案件が、地域住民の反対運動によって中止または大幅遅延の状態に陥っているとのことです。

内訳としては、約 180 億ドル(約 2 兆 8400 億円)分の案件が完全に撤回・頓挫(ブロック)し、約 460 億ドル(約 7 兆 2700 億円)分が大幅な遅延(ディレイ)に直面しています。対象となっているのは主にハイパースケーラー向けの大規模案件( 50MW 超)で、 2023 年から 2025 年初頭にかけての事例が集計されています。

反対運動の理由

住民反対の理由は多岐にわたります。まず電力面では、データセンター 1 施設で数万世帯分の電力を消費するため、送電網への負荷増大と住民の電気料金上昇への懸念が挙げられています。水資源についても、冷却用に 1 日数百万ガロンもの水を使用することから、水不足や環境負荷への不安が高まっています。

生活環境への影響も大きな論点です。 24 時間稼働のファンや発電機による騒音、夜間照明による光害、巨大建屋がもたらす景観悪化、そして住宅価格の下落リスクなどが住民の反発を招いています。さらに、近隣の自然保護区や歴史的景観、野生生物への影響を懸念する声もあります。

こうした反対運動は、かつて工場や倉庫に対して展開されていた「 NIMBY( Not In My Backyard =自分の裏庭には来ないで)」型の運動が、データセンターにシフトしてきた形といえます。レポートでは、 28 州で少なくとも 142 のアクティビスト団体が組織的に活動しており、 2022 年以降、 23 件以上の請願活動で 31,000 人以上の署名を集めたと報告されています。

具体的な事例

影響を受けた案件は全米各地に及んでいます。アリゾナ州グッドイヤー/バッキーでは、 Tract 社による約 140 億ドル(約 2 兆 2100 億円)規模のキャンパス計画が、建物の高さや騒音、資源負担への懸念から住民の圧力を受け、 2024 年に開発業者側から撤回されました。インディアナ州チェスタートンでも、約 13 億ドル(約 2050 億円)の案件が空気質や水、野生動物への影響を理由に住民反対でキャンセルとなっています。

バージニア州は特に多くの案件が影響を受けている地域です。プリンスウィリアム郡では、 QTS や Compass Data Centers による約 247 億ドル(約 3 兆 9000 億円)規模のプロジェクトが環境・騒音・歴史遺跡への影響を理由に裁判沙汰となり、長期係争状態に陥っています。 Amazon の約 60 億ドル(約 9500 億円)案件も、インフラ・資源の問題から契約再交渉を余儀なくされました。

投資・ビジネスへの示唆

このレポートが示すのは、データセンター投資における政治・許認可リスクの高まりです。従来の商業不動産投資以上に、ローカルな政治情勢や住民感情、環境訴訟への感応度が高まっており、事業化までの時間とコストが増大しています。

立地の二極化も進みそうです。北バージニアなど既存のホットスポットでは反発や訴訟が増大する一方、電力・水が潤沢で人口密度の低い地域に需要がシフトする可能性があります。また、送電線・変電所・水インフラの整備がボトルネックになりやすく、電力会社や再エネ発電事業者にとっては新たなリスクとビジネスチャンスの両面が生まれています。

米中 AI 競争への影響

米中の AI 開発競争が激化する中、アメリカの AI 開発会社は電力とデータセンター用地の確保に苦しんでおり、中国との競争優位を守るために十分なコンピューティングパワーを確保するのに苦労しているという指摘もあります。一方で中国は国家主導でデータセンターや電力供給を潤沢に増やして開発スピードを維持しようとしています。こうした状況を受けて、アメリカの AI 開発企業は最近、データセンターの建設に関しては、州レベルの規制に縛られるのではなく、連邦レベルでの議論として許認可プロセスをスピードアップさせて欲しいというロビー活動を活発化させているとのことです。