NASA と IBM は、太陽フレアや宇宙天気の予測精度を劇的に向上させる新しい AI 基盤モデル「 Surya 」を共同開発し、 8 月 20 日にオープンソースとして公開しました。サンスクリット語で「太陽」を意味する Surya は、太陽や宇宙天気の研究分野に特化した初の基盤 AI モデルです。
9 年間の太陽観測データで学習
Surya は NASA の太陽観測衛星「 Solar Dynamics Observatory ( SDO )」が収集した 9 年間の高解像度太陽観測データを用いて学習されました。 SDO は 2010 年から太陽を 12 秒ごとに撮影し続けており、太陽表面から最外層のコロナまで、様々な波長帯で太陽の各層を観測した膨大なデータが活用されています。
この AI モデルは、従来の予測手法とは異なるアプローチを採用しています。研究チームは Surya に連続した太陽画像を与え、 1 時間後に SDO が観測するであろう画像を予測させ、実際の観測結果と照合することで精度を向上させました。太陽の複雑な自転(赤道部分が極地より速く回転する)などの物理的特性も、直接プログラムするのではなくデータから学習させる方が効果的であることが判明しました。
予測精度の大幅向上
初期テストでは、 Surya は太陽フレアの分類精度を従来手法から 16% 向上させることに成功しました。また、太陽フレア発生を最大 2 時間前に視覚的に予測する機能も備えており、フレアの形状、太陽上の位置、強度まで予測可能です。従来は太陽フレア発生の 1 時間前に予測できていましたが、 Surya は視覚的情報を活用することで 2 時間前の予測を実現し、予測時間を倍増させました。
社会インフラへの重要な影響
太陽フレアや太陽嵐は、 GPS ナビゲーション、衛星通信、送電網、航空機の無線通信システムに深刻な影響を及ぼします。また、高高度飛行中の航空機を放射線の危険にさらし、宇宙飛行士にも重大なリスクをもたらします。1859 年の「キャリントン事象」では、大規模な太陽嵐により世界中の電信システムが故障し、現在同様の事象が発生すれば約 2.4 兆ドル(約 35 兆 2800 億円)の経済損失が予想されています。
オープンソース化で研究を促進
Surya は Hugging Face、GitHub、IBMのTerraTorch ライブラリで公開されており、世界中の研究者や企業が自由に活用できます。また、宇宙天気予測の構築と評価を簡素化する「 SuryaBench 」というデータセットとベンチマークも同時に公開されています。
NASA の最高科学データ責任者である Kevin Murphy 氏は「 NASA の深い科学的専門知識を最先端の AI モデルに組み込むことで、データ駆動科学を前進させている。太陽の行動の複雑さを前例のない速度と精度で分析できるようになる」と述べています。
Surya は、 AI と科学技術の融合による実用的な貢献例として、今後の宇宙天気予測や地球外天体の理解にも応用が期待されています。 IBM と NASA は既に地球の気象・気候予測モデル「 Prithvi 」も公開しており、包括的な環境予測システムの構築を進めています。